ソウルを東京に擬える

第11回 若者の街 弘大(ホンデ)と原宿・渋谷・下北沢
日付: 2022年05月31日 10時28分

弘大タボッキル周辺
裏原宿
 2016年頃からの第3次韓流ブームが定着し、若者に〝韓国カルチャー〟が浸透してきた時期に渋谷の街を歩いていると「弘大って裏原宿みたいだよね」という声が聞こえてきた。裏原宿とは原宿の竹下通りから明治通りを挟んだ表参道近辺の路地で、ストリート系の衣料品店が多く、20年ほど前にはファッション雑誌で「裏原系」としてひとつのジャンルになっていた。弘大のタボッキルやその路地には、比較的手頃なノーブランドの衣類を並べるセレクトショップが多いが、店先を見ると最近のトレンドを感じ取れる。このあたりにはアジア各国にも進出する韓国発ブランドSTYLENANDA(スタイルナンダ)の旗艦店もある。
ちなみに竹下通りにはピンク色で異彩を放つ同社の店舗があり、この外観は明洞にあるショップと瓜二つだ。さらにその向かいや並びには韓国コスメ店、近くのラフォーレ原宿にも韓国系ファッションのテナントが入っている状況だ。ここ数年、とくに女子高生から話を聞くたびに自然な流れで韓国の話題が出てくることからも、こうしたトレンドは読み取れる。
韓国コスメやドラマ、K―POPは誰もが触れるものとなり、これまでの「韓流」、ひいては韓国風を表す「韓国っぽ」がZ世代(90年代中盤以降生まれ)の趣向のジャンルとして定着し、東京の街にもその傾向が現れているのだ。明治通り沿いには19年春、サムスン電子の体験型ショールーム・Galaxy Harajukuがオープンしたが、これはソウルの江南駅にある本社ビルと下の階にある広報館を連想させる。そして原宿という場所柄からは若年層に広くPRしたい意図もあるようだ。隣には21年にK―TOWN 原宿という韓国フードコートが開業、22年に入ってからは現代自動車が駅近くに期間限定でショールームを開くなど、ここ数年、原宿に韓国の要素が集結している。
また弘大を若者の街としてみたとき、渋谷に例える人も多い。渋谷センター街を中心に若い世代が集まり、ナイトクラブがあったりと夜更けまでにぎわう点は似ている。とはいえ弘大ほどに若い世代が集まるわけではなく、高級志向の百貨店や大人の香りがするバーなどもある。若者の流行の発信地であるSHIBUYA109には特にコロナ以前には韓国系ファッションのテナントが入り、韓国アイドルを起用した催事もしばしば行われていた。渋谷の街には弘大にも店舗があるÅLAND(エーランド)も進出している。22年に入ってからは美容整形アプリのカンナムオンニが渋谷駅ハチ公口で人気モデルのカン・テリを起用して大型広告を出すなど、10~20代をターゲットに韓国企業がマーケティング戦略を強めている。
また弘大は下北沢と似ている要素もある。弘益(ホンイク)大学校が芸術系総合大学であるためか、街には壁画通りがあったり、個性的なショップが多かったりとアーティスティックな雰囲気が漂う。アート雑貨がそろうサンサンマダンは街のランドマーク的存在のビルだが、下北沢では19年には小田急線駅構内にシモキタエキウエが開業し、その後も周辺に新たな施設が生まれるなど再開発が盛んだ。そして地元商店が悩まされた落書きは、徐々にシャッターアートへ生まれ変わった。弘大には小さなライブハウスも多く、インディーズバンドの聖地ともいわれるが東京ならば下北沢がこれに近い。ただ下北沢には演劇が行われる小劇場が多く、その点ではミュージカル街ともいわれる大学路に似ている。
コロナ禍も落ち着きをみせ、街に出歩きやすくなった昨今では国内はもちろん韓国への渡航を考え始めた人もいるだろう。ソウルでは東京を、東京ではソウルを思い浮かべてあれこれ話してみれば、きっと旅や街歩きのスパイスとなるに違いない。

吉村剛史(よしむら・たけし)
1986年生まれ。ライター、メディア制作業。20代のときにソウル滞在経験があり、韓国100都市を踏破。2021年に『ソウル25区=東京23区』(パブリブ)を出版。


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