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次期政権に求められる多様な人材育成
日付: 2022年04月05日 11時55分

 韓国の経済社会や歴史を知るうえで、書籍や論文だけでなく、韓国映画やドラマも大いに参考になることがある。例えば、『南山の部長たち』で朴正煕大統領が暗殺された背景を詳細に知ることができたほか、『タクシー運転手』や『1987ある闘いの真実』を見ることによって、民主化運動の熱気を疑似体験することができた。
韓国は日本以上の学歴社会だと言われている。大学進学率の高さや勉強に明け暮れる高校生の生活、悲喜こもごもの修能試験の様子などが、そのことを物語る。教育熱が高いのは良いが、問題なのは有名大学への入学自体が自己目的になり、それが必ずしも子供の意思ではなく、親の願望になっていることである。ピラミッドの上をめざせという圧力は子供に重くのしかかり、時に悲劇を生む。ドラマの『スカイキャッスル』は恐ろしいまでに、このことを浮き彫りにした。
たとえ有名大学に入っても、大企業に就職できる保証は今やない。通貨危機後、大企業は即戦力となる人材を国内外から採用し、新卒採用者を大幅に減らしたからである。
大企業に就職するために、大学生は大学時代に思考力ではなく、スペックを高めることに力を注ぐ。こうした努力をした者にとって、高卒(コジョル)は蔑む対象でしかなく、自分たちと同じ土俵に立つことを許せないのかもしれない。最近の人気ドラマ『二十五歳二十一歳』のなかの高卒記者、14年のドラマ『ミセン(未生)』での高卒契約社員に対して、先輩社員から時に容赦ない言葉が降りかかる。胸が凍りつくほどである。
『ミセン』のなかの高卒契約社員(家庭の事情で棋士になることを断念)は、自分の武器は囲碁を通じて培った判断力と推理力であることに気づき、それを活かすとともに、時間を惜しんで仕事に必要な知識を身に着けていく。その努力によって、次第に会社に貢献する機会が増え、同僚からの信頼を得ていくが、高卒であるがゆえに、彼が希望する正社員になれず契約の満了となる。
ドラマでの話はこれが終わりではない。再びバイト生活に戻るのかと思ったら、彼の能力を認めた元の上司が、自ら設立した小さな商社に迎え入れる。学歴ではなく、仕事を通じて能力を身に着けて伸ばすこと、それを評価することの大切さを教えてくれる。
日本では高卒で職人としての修業を積み始めたり、家業を継ぐ人が少なくない。彼らの仕事に対する誇りは、大卒が容易に手に入れられないものでもある。
韓国では李明博政権以降、マイスター高校や産業協力型特性化高校を新設するなど、職業教育に力を入れ始めた。産業協力型特性化高校では、産業界の協力を得て5~6年間のオーダーメイド型の教育課程をつくり、特性化高校(3年間)における実習、基本教育と専門大学(2~3年間)が提供する理論・技術教育を組み合わせて、卒業と同時に就職に結びつける狙いである。
専門大学は通常2~3年で、工業技術、IT、観光などに関する高度な職業教育を実施している。中堅技術者の多くは専門大学出身である。近年、大学卒業生の就職率は低下しているが、専門大学卒業生の就職率が上昇していることに注目したい。
一方で近年、第二のベンチャーブームが生じ、雇用者数でベンチャー企業が4大財閥を上回った。スタートアップに対する支援拡充に加え、第4次産業革命が進展するなかで、新たなビジネスチャンスが生まれていることが背景にある。
韓国では若者の就職難が問題になっている。次期政権には、次世代産業に必要な高度な専門人材、モノ作りを支える人材、スタートアップをめざす人材など多様な人材の育成とともに、若者がさまざまなキャリアパスを歩める環境を整備することが求められる。
(中央大学非常勤講師 向山英彦)


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