北韓のミサイル発射実験が、東アジアの安全保障上の脅威として急浮上している。世界の耳目がウクライナ問題に向く中、それを隠れ蓑にするかのように実験を繰り返している。金正恩にとっては、まさに好機である▼専門家らの分析によると、今回の実験で発射されたミサイル「火星17」は、米国東海岸にも到達する能力を持つという。5年前に発射実験が行われた「火星15」は、米国西海岸までを射程に捉えると言われていた。性能の向上は、東アジアだけでなく、環太平洋の安全保障に大きなインパクトを与えるだろう▼金正恩は満足げだ。まるで映画のような演出のニュース映像、「真の防衛力は強力な攻撃能力」といった発言。国内外へのアピールに余念がない▼反撃を受ければひとたまりもない北韓は、ミサイル攻撃には踏み込まないだろうという、楽観論がある。この言説には一理あるが、それは北韓を単独で見た場合に限るといっていい▼今回のロシアによるウクライナ侵攻では、ロシアの正規軍だけでなく、ウクライナの「親露派武装勢力」も戦闘に加わっている。隣国ベラルーシも参戦するかもしれない。米中対立が深まり、武力衝突があるとすれば、北韓は中国の”先兵”にうってつけだ▼尹錫悦次期大統領にとっては、この多国間にまたがる安全保障問題は大きな課題となる。現政権がまったく着手してこなかった懸案であり、その間に同盟国との関係は悪化している。悪材料は尽きないが、早急に最善の手を打つ必要があるといえる。