北韓が三月一六日、またもや弾道ミサイル発射実験を行ったが「失敗」したようだ。北韓メディアはミサイル発射の成功可否について報じていない。失敗や敗北などネガティブなイメージを極端に嫌うからだ。とはいえ、今回の失敗で今後のミサイル発射実験に多少の歯止めがかかるわけではないだろう。
金正恩総書記は、これまで多少の失敗を省みずミサイル発射実験を継続してきた。あくまでも筆者の予想に過ぎないが、四月に軍事偵察衛星打ち上げと称してICBM(大陸間弾道ミサイル)級のミサイル発射実験を行う可能性が高い。実際、金正恩氏は三月一一日、西海衛星発射場を現地指導し、「大型運搬ロケット」が発射できるよう改修・拡張せよという指示を出した。衛星運搬ロケットとしているが、二〇一七年一一月以後に行われていないICBM(大陸間弾道ミサイル)級のミサイル発射実験を兼ねるとみる。加えて軍事偵察衛星の打ち上げに成功すれば、金正恩氏にしてみれば「一石二鳥」だろう。
また、二二年四月に発射実験を行うには十分な理由がある。金正恩氏のリベンジ・マッチになるからだ。一〇年前の一二年に金正恩氏は、自身の朝鮮労働党のトップ(当時は第一書記)就任(四月一一日)と、故金日成主席の生誕一〇〇周年(四月一五日)に合わせて、四月一三日に衛星打ち上げロケット「銀河(ウナ)三号」を発射するも直後に空中分解。北韓メディアは即座に失敗を公表した。ちなみに今回もそうだが、衛星打ち上げロケットとしているが、技術的には長距離弾道ミサイルと同じである。実験を警戒していた関係諸国や分析筋は、北韓がICBM級の長距離弾道ミサイルを保有するにはまだ時間がかかるのではと見ていた。
しかし、北韓は同年一二月一二日、人工衛星「光明星三号二号機」を搭載したロケット「銀河三号」の打ち上げに成功する。金正恩氏は、いわば同年内にリベンジ・マッチに臨み「勝利」したわけだ。この時から、金正恩氏は取り付かれたようにミサイル発射実験を繰り返すようになった。さらに、翌一三年、一六年(二回)、一七年と計四回の核実験を行いながら「核兵器」開発を加速させた。強引な例えかもしれないが、核爆弾を製造したとしても「手榴弾」をもっているだけに過ぎない。手榴弾(核爆弾)を搭載し、対象に投擲できる手段の「ミサイル」を開発してはじめて「核兵器」を保有したことになる。金正恩氏が固執する核兵器の対象は言うまでもなく米国だ。金正恩氏は、核を放棄してロシアに侵攻されたウクライナを見ながら、「米国本土に到達可能な核兵器を保有し、米国に核保有国であることを認めさせる」と思っているに違いない。韓日両国は距離でいえば米国よりもはるかに近い。すなわち我々にとって、北韓の核の脅威は米国よりも「今、ここにある危機」だという現実にもっと目を向けるべきだ。
高英起(コ・ヨンギ)
在日2世で、北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。著書に『北朝鮮ポップスの世界』『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』など。YouTube高英起チャンネルでも情報発信中!