キスン便り(第56回)在日の精神構造⑨ 時代錯誤

日付: 2022年03月11日 11時22分

 組織批判をしたついでに、もう少し踏み込んでみようと思います。私はかみさんに拾われてから東京に出て一年半、民団の中央本部で勤務していました。給料があまりにも安かったので、かみさんに「生活出来るようにして」と脅され、民団を辞めて会計士になりました。
私が居た当時から、民団は国籍と民族を混同していました。本来なら民族のための組織であるべきところ、民団は国籍のための組織と化しています。根本原因は本国から送金してもらい、職員の給与をまかなっている、という点にあります。
西暦二〇〇〇年に当たり、民団で21世紀委員会というものが組織されました。私は経済部会の部会長になりました。この時、商銀を一本化して銀行とし、団員には株を信託してもらい、配当金を民団中央がもらうという構想を立てました。議決権まで委任してもらえるなら、民団が商銀の人事権を握ることになります。そこまで行くと政治なので、そこから先は政治が大好きな人たちに任せますが、私の狙いは、民団中央の本国からの独立でした。経済的に独立しないと、民団は在日のために働くことが出来ません。
しかし関西興銀は破綻し、その他の商銀もボロボロで構想は夢に終わりました。私は大学を出てから地元の商銀に八カ月ほど勤務していました。研修の時に専務が新入職員に向かって「脱税なんていくらでも出来るんだ」と話しました。耳を疑うばかりの発言です。脱税はたまたま見つからなかったから出来たというだけの話で、税務署がコスト無視でやって良いのなら、必ず見つかるものです。それに倫理観のかけらでもあるのなら、そういう発言は出てこないでしょう。加えて、これは私が居た商銀に限ったことであることを祈りますが、商銀マンは数字が読めないし、数字で判断出来ないし、税務申告書の見方も知りません。これでは中小企業のサポーターはできません。
新入社員が何も知らないのはこれはやむを得ません。日本の教育はその程度です。大学を出たところで即戦力にはなりません。しかし入社してからは、先輩や上司が教えて使える人間にしなければならないのに、専務自らが「脱税なんていくらでも出来るんだ」と言っているようでは、お先真っ暗です。おまけに私が居た商銀は通名を強制して本名を名乗らせませんでしたしね。ろくな奴らじゃない、と思いました。
こうした状況ですから、いずれ民団組織は崩壊するでしょう。一九八五年に日本の国籍法が父母両系になったことから、いずれ在日はみんな日本国籍になってしまうのは自明のことでした。ですから民団社会は崩壊します。総連社会も崩壊します。ただ、民団中央は本国からの送金がありますから、ここは領事館の下請けとして機能し続けるでしょう。マスコミ対策用に韓国は民団中央だけは維持するでしょうね。民団は体がなくて頭だけあるゾンビとして生き残ることでしょう。そして皮肉なことに南北が統一すると、切り捨てられるでしょう。
二世が死に絶えたら、その時は在日の社会は終わりです。もしいま何か出来るとするなら、日本国籍を取るときに本名を選択するように、本名が持つ意味を皆に知らせることです。日本の多様性のために、いろいろな人が共生出来るようにするために、のちの子孫がルーツを知りたければ知ることが出来るようにするために、そして何より、自分で自分を差別しないために、本名で日本国籍を取得するような運動をすべきだと思っています。本名を失えば民族は完全に失われます。一世の存在まで否定されることになります。しかし組織は国籍が同じ者のための組織ですから、本名帰化運動はやりたくても出来ません。在日社会は、なし崩し的に崩壊するでしょう。

李起昇 小説家、公認会計士。著書に、小説『チンダルレ』『鬼神たちの祝祭』『泣く女』、古代史研究書『日本は韓国だったのか』(いずれもフィールドワイ刊)がある。


閉じる