【BOOK】『父の時代―息子の記憶―』(金源一・著/遠藤淳子・金永昊・金鉉哲 訳)

息子の記憶とさまざまな証言で描く 激動の時代を生きた父の実像に迫る
日付: 2022年01月19日 00時00分

 著者の説明にもあるのだが、本作品は朝鮮独立と6・25戦争(朝鮮戦争)間の時代の流れを歴史的な事実に基づきルポルタージュ式に記述した部分と、著者の父親の生涯と自身の幼年期について伝聞と記憶をもとに書き上げた小説部分とが並行して進んでいく。
物語の舞台は韓半島南部の洛東江河口の町、金海郡進永邑を中心に、釜山やソウルでも展開する。著者が生まれた1942年は太平洋戦争の真っただ中だった。高等教育を受けた父と、貧しい儒者の末娘で教育は受けていないが働き者の母との間に誕生した。著者が記憶する父親の影は薄い。日本に留学していたり、釜山に別の女性と所帯を持っていたりで、家にはほとんどいなかったからだ。それでも地道な取材を重ねて、一人の男性像が作り上げられていく。
本書で興味を惹かれたのは、子どもたちの日々の暮らしの描写だ。小学生が付ける名札は、布切れを被せて作ったものに毛筆で学年と名前が書かれている、姉と一緒に居間で腹ばいになって宿題をするなど、ある年代の読者なら幼い頃の記憶を呼び起こす情景が満載だ。苦しい時代の苦労に思いを馳せながら、どこかほのぼのとする読後感の作品でもある。
書肆侃侃房刊
定価=2970円(税込)


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