世界に広がるハングルブーム TOPIK受験者急増

「Kカルチャーが好き=学びたい」
日付: 2022年01月01日 00時00分

 近年、ドラマやK―POPを通じて気軽に韓国文化に触れることができるようになった。そんななか、韓国語学習ブームが国際的な高まりを見せている。それを測る指標の一つとなるのがTOPIK(韓国語能力試験)だ。TOPIKは韓国政府が認定する唯一の韓国語試験で、受験者は年々増えている。特に日本の受験者は一昨年から急激に増加。TOPIKを主管する韓国教育財団や韓国語学習者に、ブームの背景と現状について話を聞いた。

K-POPやドラマ・映画など 
文化を入り口に学び始める

韓国教育財団の崔明・管理部長
 TOPIKの主催は大韓民国教育省の所属機関である国立国際教育院だが、それを日本で主管するのは韓国大使館と公益財団法人韓国教育財団(徐東湖理事長、以下財団)だ。
あまり知られていないことだが、TOPIKの原点となったのは1996年に財団が独自に行った韓国語試験だ。翌年から韓国政府に主管機関が移り、97年からTOPIKとしてスタートした。
97年に実施された第1回TOPIKで、日本における受験者数は、約1500人だった。当初は年1回だった試験も年3回まで増え、試験の出題方式もより良い形を求めて洗練されている。年10%程度のペースで着実に増加していた受験者数が、一昨年ほど前から急増した。2019年の日本の受験者数は約2万7000人と過去最多を記録。21年には4万人を突破し、19年と比較して約48%増加した(20年は試験の中止などで統計データが不足)。
BTSなどのKPOPアイドルやドラマ・映画など、韓国文化の人気がブームをけん引していることは間違いない。
また、財団は19年までは32カ所だった試験会場を、21年は最大45カ所まで拡大した。受験者数の増加は、これまで試験会場が遠方であるために諦めていた人々が機会を得たことも後押ししている。
興味深いのは、近年のTOPIK受験者の傾向だ。TOEIC(英語)やHSK(中国語)などは主にビジネスへ活かすために受験するが、近年の韓国語学習者は少し様子が異なる。統計によれば、留学や就職の要件としてTOPIKを受験している人は全体のおよそ3割。残りの7割は趣味や腕試しとして受けているという。「KPOPやドラマ好きが高じて語学学習を始める」―これは日本できわめて顕著な例だが、国際的にも増えつつある傾向だ。
財団の崔明・管理部長は、昨今の受験者を次のように分析する。
「2002年の日韓ワールドカップのときは(韓日の)友好関係が築けていたが、その数年後はあまり良くないことがあった。当時はそれが受験者数に反映された。対して今回は(韓日関係が悪いと言われるにも関わらず)むしろ伸びた。こうした状況をみるに、TOPIKは政治的な関係性とは離れた、民間の交流で成り立っているのではないかと想像できる」
崔部長は、「奨学金事業も韓国語試験も教育支援。ゆくゆくは人材を育てることによって、日韓もしくは世界と韓国、世界と日本という大きな橋渡しにも繋がってくる。これは当財団の成すべき大きな役目だと思っている」と語った。

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 韓国教育財団は2013年に公益財団法人として認定され、現在に至る。在日韓国人の高校~大学院生を対象とした奨学金事業に力を入れており、これまで延べ9920人の学生に約19億円を支援してきた。理事長の私費で賄われる「碧夆奨学金」(米国トップ30あるいは世界50位圏内のMBA課程に合格・在籍する学生が対象)も設けており、「経済人が世の中を変える原動力になっている」という徐理事長の理念を体現している。

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■梁鎬錫・首席教育官に聞く
「韓国語能力試験」今後の展望

――近年の国際的なTOPIK受験者数はどのような状況か。

「2019年の統計によると、全世界83カ国で37万5000人が受験した。もともと在外国民の教育の一環として想定されていたため、TOPIKを開始した1997年当時は、グローバル社会の教育のために何かをやったというイメージはなく、在外教育を支援する目的で韓国教育院や韓国学校・ハングル学校などが法制化された」

――では、昨今の韓国語学習の広がりは予想外なのか。その要因の分析は。
「まずはK-POPやKドラマ、Netflixの影響や映画など、文化的に多様なアプローチで韓国文化を周知できたこと。加えて、在外国民が現地に影響を与え、韓国文化に対する関心を高めているのではないかと考えている。以前と違って、在外国民自身もビジネスとは無関係に『韓国が好き』という感覚がある」

――日本の韓国語学習は留学やビジネスのためではなく、純粋に趣味の延長で勉強するケースが非常に多い。欧米圏はそれと比較してどうか。
「例えばARMY(BTSのファンダム)などは、韓国人と会話するためというよりは、ファン同士の交流を楽しむため韓国語を一つの手段として使用している。明快な発音原理など、言語自体の独特の魅力も後押ししていると思う」

――人気を実感したエピソードなどは。
「韓日両国に共通することだが現在、高等教育機関がコロナ禍や生徒不足により財政的にひっ迫している。しかし、韓国語を専攻するところは人が集まっていると聞く。日本のある専門校はK-POP専攻コースを新設したところ、他よりも多くの応募があった。そうした現象があちこちで見られる」

――韓国政府として、TOPIKをどのような位置付けに考えているのか。

「TOPIKは現状、資格の一つでしかないため、どのように人事や昇給に関与するかを政府側が決めることは難しい。そこで21年8月から専門家チームを作って、どのようにインセンティブを与えるかを研究している。 『TOPIK受験によって獲得できる能力』を定量的に提示できれば、優遇制度に利用する際の指標になりうる。また、TOPIKを受けたい生徒を持つ教師向けの資料も、22年2月をめどに作成しているところだ」

――20年はコロナ禍で試験の中止などがあった。試験のオンライン化などは考えているのか。

「21・22年にパイロットテストを実施して、23年からはいくつかの国でオンラインで行いたい。ただし、従来の紙のテストをなくすわけではない。あくまで両方選べるようにしておく、という方向で考えている」

梁鎬錫・首席教育官:韓国の教育省、九州大学院の教育学博士、大阪領事館を経て現在に至る

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「Kカルチャーネイティブ」の台頭
幼少期から韓流コンテンツになじみ

 Kカルチャーネイティブ世代にとって、韓流コンテンツや韓国語は外国の異文化ではなく、もっと身近に浸透した、抵抗感なく自然に触れるもの、ということだ。
「第19回神奈川韓国語スピーチ大会」(昨年10月、神奈川韓国綜合教育院主催)で大賞に輝いた添田茉友子さんは、まさに「Kカルチャーネイティブ」だ。
添田さんと韓国の出会いは小学4年生。母と一緒に『冬のソナタ』を見ていた頃までさかのぼる。ドラマを一緒に見るうち、歌詞の意味が分からないまま主題歌などを真似て歌っていたという。
韓国語は大学で本格的に学んだ。昨年7月にはTOPIK4級を取得。特に大きなきっかけがあったわけではなく、字幕なしでドラマを見たい、意味を理解した上で歌いたいと思ったことが動機だ。今は地方公務員としての経験が契機となって、通翻訳の資格を意識しているという。
TOPIK6級の取得者は、通訳案内士(日本政府観光局)の韓国語科目試験が免除される。添田さんは今後、「6級に合格して自信をつけた後、通訳ボランティアを通じて在日韓国人支援の一助になりたい。加えて、語学学習だけでなく、異文化理解や交流事業への参加をしていくことで、日韓の架け橋となることが目標」と語った。

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2019年に東京で開催された「話してみよう韓国語」大会(写真=駐日韓国文化院提供)

日本の韓国語学習者において、注目すべき点は他にもある。2000年代から始まった「第1次韓流ブーム」は現在、「Kカルチャーネイティブ」ともいうべき世代につながっている。その影響もあって、日本のTOPIKの受験者は女性が多く、その比率は約9割と圧倒的だ。韓国語を習得した彼らは必然的に、自身の言葉で話す場を求めており、スピーチ大会などを積極的に開催する駐日韓国文化院は、機会の提供に大きく貢献している。


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