韓国スローフード探訪60 薬食同源は風土とともに

鶏龍山の現代陶芸家と自家製スジョングァ
日付: 2021年10月13日 00時00分

 韓国を訪れる楽しみのひとつが伝統茶をいただくことと、焼き物を見ること。伝統茶の種類は実に多く、韓国の伝統茶を知るまでは、お茶イコール茶葉を使ったものと捉えてきた。が、韓国の伝統茶はこの概念を取り去るほど魅力があり興味を持った。
韓国の歴史の中で、緑茶は中国から伝わり栽培され、僧侶や貴族たちの間で緑茶を嗜む(喫茶)人が増えた。しかし、朝鮮時代になると崇儒廃仏により緑茶に重税をかけ、人々に推奨したのが穀物や果実、香辛料などを使った身体によいとされる飲み物であった。これが伝統茶として今日まで受け継がれている。もちろん、緑茶も伝統茶のひとつとされている。
10年ほど前になるだろうか。晩秋に忠清南道から大田広域市に広がる鶏龍山を訪れた。山の名前は、鶏の鶏冠のような峰が連なることに由来している。ここを訪れたのは、有田焼(日本の佐賀県有田)の祖で知られる李参平の故郷と聞き足を運んだ。その昔、この地から多くの陶工たちと共に日本へ連れて来られ、有田で泉山磁石場を発見し白磁を作り始めたのが李参平である。
高麗、朝鮮と盛んに焼き物が作られた鶏龍山だったが廃れてしまい、近年になって若い作家たちが集まり、窯を造り創作にいそしむ陶芸村が出来上がっていると聞き訪れた。整備された道、どこから見てもわかるほどの大きな看板がバスの中から望めるほど。山へと上ったところに共同で使う窯があり、作陶しているのは若手作家とは聞いていたがなかなかの方々ばかり。その中の一人、イ・ソさんから「陶磁器の説明はこれで終わります。自宅の方に移りますね」と言いながら、工房と隣り合わせの自宅へ。もう少し、イさんの作品を手にしてみたかったと思いながら、後について行くとびっくり、イさんの作品に奥さんお手製のスジョングァ(水正菓)が用意されていた。
スジョングァは生姜とシナモン、粒こしょうを煎じたところに砂糖を入れ、冷ました後に干し柿やクルミ、松の実を入れる(作り方はいろいろ)。食後のデザートとしてシッケ(お米のジュースのよう)とともに代表的なもの。
 「この干し柿は、ここに前からあった柿の木から10月に収穫して干したもので。無農薬だから安心してどうぞ」と、韓菓とともに用意して待っていてくださった。一気にスジョングァを飲み干すと、「味はどうですか」「韓国ではご飯の後にスンニョン(ご飯窯に水を入れておき、食後に飲むもの)と同じように、デザートとしていただくものです。干し柿の甘味と生姜やシナモンのスパイシーさが出ていないといけないのですが、いかがですか」と。「さっぱりとした甘さと生姜の辛さ、それにシナモンの風味が重なり美味しいでね。まさにデザートでもありますね。何よりイ先生の器でいただける贅沢さに感激です」と伝えると、自家製の薬酒がズラリと並んだキッチンへと案内してくれた。そこには、ユズ茶や五味子茶、人参茶などをいつでも作れる用意がしてあった。
「コンビニもスーパーも近くにないことが楽しい日常になっていて。こうして、山の幸を四季折々に蓄え、日常の暮らしに役立てていけるライフスタイルが好きで」と話しながら、韓国に伝わっている食文化は今の時代にこそ必要だと思うこと。都会暮らしもいいけど自然とともに暮らす今が楽しいと。鶏龍山の山中で現代陶工家たちが作る新たな「鶏龍山」に触れ、予想もしていなかったスジョンガァを味わう幸せな時間となった。
柿が出回る季節。鶏龍山のイ先生の奥さんは今ごろ干し柿作りをしていることだろう。食後の体調を整えるスジョングァの効能は、胃腸を調え風邪の予防や疲労回復にも効果がある。

食後のデザートとして定番のスジョングァは、干し柿の甘みとショウガやシナモンの辛味が特徴の伝統茶です。食後の口直しとしてシッケと共に昔から親しまれてきたお茶で、最近では缶やペットボトルに入ったものを簡単に入手できるようになりました。体を温め、胃腸を保護し、気の流れをよくするため、風邪や二日酔い、貧血や消化不良などに良いとされています。

 新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。


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