◆多方面からひもとく韓国映画◆『戦狼2』(中国)

中国宣伝映画ヒットの裏に韓流との前史
日付: 2021年09月29日 00時00分

 

下川 正晴(元毎日新聞ソウル支局長)

監督/ウー・ジン 出演/ウー・ジン、フランク・グリロ、セリーナ・ジェイド、ウー・ガン、ハンス・チャン/ウー・ジンは、監督・脚本・主役をこなす(写真は映画ポスター)

習近平路線の強化とともに中国映画は新たな段階に入っており、中国に迎合的な韓国でも悪影響が出始めた。
最近の国際政治用語「戦狼外交」は、2017年制作の中国映画『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』(原題『戦狼2』)を参照して誕生した言葉である。最近の中国外交部の「攻撃的な外交スタイル」を指す。福島第一原発の処理水放出計画を、浮世絵「富嶽三十六景」のパロディー画で揶揄した報道官・趙立堅が、その代表格である。
映画そのものはシルヴェスター・スタローン主演の米国映画『ランボー3 怒りのアフガン』(1988年)の焼き直しだが、「我が中華を犯す者は、遠きにありても必ず誅せん」(犯我中華者雖遠必誅)という中華愛国主義のプロパガンダが明瞭である。
映画『戦狼2』の舞台は、アフリカ東部の某国である。政府軍と反乱軍の内戦によって孤立した中国人らを救出するために、中国人民解放軍の艦艇が出動する。その先鋭として獅子奮迅の働きを見せるのが、解放軍退役兵の主人公レンだ。監督兼主演の呉京(ウー・ジン)が演じている。20世紀の米国版ランボーはベトナムやアフガンの戦場で「活躍」したが、21世紀中国版の戦狼レンは、第一作の中国南部国境から『戦狼2』ではアフリカに転戦し、強烈な中華愛国主義を鼓舞するのだ。
西洋人の傭兵部隊長との格闘シーンで、レンは「弱い者は弱々しく生きるのが運命だ」と罵られる。しかし、ついに彼を殺害したレンは「それは昔のことだ」と言い、勝利を宣言する。これは明らかに過去の西洋帝国主義に反逆する中華覇権主義の報復的メッセージだ。
この映画を最近のアフガン事態を念頭に見ると、米軍が現地から撤退し中国が反乱軍と提携する構図が、映画そのものである。実際にも、撤退する米艦艇と進駐する中国艦艇が海上で行き違うシーンがある。
中国国旗が「救援のシンボル」として、再三登場する。エンディングでは中国のパスポートが映し出され、「あなたの後ろには強い祖国がいるのです」と観客の中国人を鼓舞するのだ。中国とアジア各国での観客動員数は1・6億人を突破し、歴代興行収入1位(約1000億円)を稼ぎ出した。
韓国では最近、朝鮮戦争末期の中国側攻勢を映画化した『1953金城大攻勢』を国内配給する計画があった。モデルとなった東部戦線・金城の戦いで韓国軍は4キロ以上後退し、韓国軍1万3000人、中国軍7万人の戦死者を出した。さすがに、この配給計画は批判を浴び放棄されたが、韓国が中国文化攻勢の標的である現実を浮き彫りにした。朝鮮戦争における中国軍介入時の「長津湖の戦い」(米韓軍の敗退局面)を映画化した作品も、近く中国国内で公開されるという。
中国では2016年「映画産業促進法」が成立し、国策映画作りが政策化された。『戦狼2』の大ヒットは、その成功例だ。ネットフリックスで配信中の中国映画『流転の地球』(19年、歴代興行収入4位)もその一環である。
今世紀はじめ、韓流シネマの監督・スタッフが中国に招聘され、多くの中国映画を作った。中国映画界はその学習成果を発揮して、韓国に攻勢をかけている。韓流の中国浸透を阻止する「限韓令」が長期化する現状を考えれば、中韓映画交流史の大きな皮肉である。

予告編=https://www.youtube.com/watch?v=gSIO4s3IEV4
アマゾン・プライム・ビデオほかで配信中。


閉じる