韓国の南、全羅南道にある美しい島々を抱える麗水市。2012年に世界海洋博覧会が開催され、国内外から多くの人が訪れ話題を集めた。点在する島は多島海海上公園と呼ばれ、国内有数の景勝地であり魚介類の宝庫として知られている。市内から島へは橋で結ばれているところも多く、心地よい潮風を受けながらの散策は格別。
数年前のこと「鱧が旨い時期だから麗水に行かない?」と釜山の友人からのメール。彼女は観光の仕事をしていることもあって、たまに誘いの連絡がある。釜山生まれ釜山育ちのせいか魚介類の情報が多いのだが、鱧は初めてだった。高級魚で知られる鱧は、夏になると京都で食べるぐらいしか馴染みがなく、鱧のゆびきを酢みそでいただくぐらい。まして「韓国で鱧料理?」と思いながら釜山へ。麗水へ行くのは多島海海上公園を訪れて以来3度目であった。
釜山国際空港に到着すると、友人が手を振って出迎えてくれた。顔を見るなり「こっち、こっち。車で来たから」と小走りで駐車場へ。言わなくてもわかるという仲だが、相変わらずのスピード感だ。「車で行くの?」と聞いても「早く、早く。乗って。車の方がいろいろ回れるから」と。
高速道路に入り、ようやく彼女に鱧のゆびきを食べに行くのかを聞いてみた。すると、日本からのお客さんも多いことや、日本では鱧のゆびきだけど、こっちでは刺身やしゃぶしゃぶで食べるという。鱧の骨のことを話すと、「韓国には骨切り名人」がいて、下処理は専門の人が行った上で飲食店に届くようだ。
鱧は日本でも西の地方で獲れるものという印象が強く、関西周辺では夏になるとスーパーで「鱧のゆびき」を見かけるが、関東ではあまり見たことがない。栄養の高さはいうまでもなく、たんぱく質やカルシウム、コラーゲン、ビタミンなどを多く含み夏バテ予防にも効果あると聞いている。そんな高級魚を、韓国では一般的に食べているというが何となく半信半疑だった。
パーキングエリアで何度か休憩をしながら、友人おすすめの店に着いた。「ここから近いところにある茎島は鱧の島で有名だけど、今日は遅くなったから、ここで食べましょう」と言いながら店に入った。店主とは顔馴染みのようで、「日本から友だちを連れてきたからサービスしてね」と彼女の甲高い元気な声。店主から「日本の鱧のゆびきも美味しいけど、麗水も美味しいから」と。バンチャン(小皿料理)が並ぶ。「さすが海辺の街。魚介類が多い! 玉ねぎのブロックにニラ? サムにするのかな」と思っていると、山盛りの刺身に続き鍋がセットされた。刺身としゃぶしゃぶを同時に楽しむようだ。なるほど。韓国のこういうところが大好きだ。
出汁に野菜が入った鍋に火がとおってきた。そこに店主がスッと現れ鱧を入れ、ふわっと花が開いたようになったところで醤油やニンニク、唐辛子などを入れた合わせ醤油(タレ)につけ、ひと口いただく。おお、なんとまろやかで淡泊。そこにピリッ感と醤油の旨味が加わって何とも旨い。
刺身を食べようとすると友人が「こうこう」と、お手本を見せながら「もう韓国式の食べ方は慣れていると思うけど、刺身に生の玉ねぎとニラもサム(包む)で食べてみて。淡泊な鱧の味に玉ねぎの辛さと甘さ、そしてニラの風味が加わって美味しさが増してくるから」と。刺身にはワサビという感覚しかないのだが、韓国式の食べ方だと自然と野菜も多く食べることになるのがいい。テーブルには特性の合わせ味噌と醤油だれが用意され、ここに美味しく食べる工夫がある。
初秋のころとなった。麗水の鱧料理は10月まで。ふっくらとした鱧が夏の終わりを告げている。 韓国の南、全羅南道にある美しい島々を抱える麗水市。2012年に世界海洋博覧会が開催され、国内外から多くの人が訪れ話題を集めた。点在する島は多島海海上公園と呼ばれ、国内有数の景勝地であり魚介類の宝庫として知られている。市内から島へは橋で結ばれているところも多く、心地よい潮風を受けながらの散策は格別。
数年前のこと「鱧が旨い時期だから麗水に行かない?」と釜山の友人からのメール。彼女は観光の仕事をしていることもあって、たまに誘いの連絡がある。釜山生まれ釜山育ちのせいか魚介類の情報が多いのだが、鱧は初めてだった。高級魚で知られる鱧は、夏になると京都で食べるぐらいしか馴染みがなく、鱧のゆびきを酢みそでいただくぐらい。まして「韓国で鱧料理?」と思いながら釜山へ。麗水へ行くのは多島海海上公園を訪れて以来3度目であった。
釜山国際空港に到着すると、友人が手を振って出迎えてくれた。顔を見るなり「こっち、こっち。車で来たから」と小走りで駐車場へ。言わなくてもわかるという仲だが、相変わらずのスピード感だ。「車で行くの?」と聞いても「早く、早く。乗って。車の方がいろいろ回れるから」と。
高速道路に入り、ようやく彼女に鱧のゆびきを食べに行くのかを聞いてみた。すると、日本からのお客さんも多いことや、日本では鱧のゆびきだけど、こっちでは刺身やしゃぶしゃぶで食べるという。鱧の骨のことを話すと、「韓国には骨切り名人」がいて、下処理は専門の人が行った上で飲食店に届くようだ。
鱧は日本でも西の地方で獲れるものという印象が強く、関西周辺では夏になるとスーパーで「鱧のゆびき」を見かけるが、関東ではあまり見たことがない。栄養の高さはいうまでもなく、たんぱく質やカルシウム、コラーゲン、ビタミンなどを多く含み夏バテ予防にも効果あると聞いている。そんな高級魚を、韓国では一般的に食べているというが何となく半信半疑だった。
パーキングエリアで何度か休憩をしながら、友人おすすめの店に着いた。「ここから近いところにある茎島は鱧の島で有名だけど、今日は遅くなったから、ここで食べましょう」と言いながら店に入った。店主とは顔馴染みのようで、「日本から友だちを連れてきたからサービスしてね」と彼女の甲高い元気な声。店主から「日本の鱧のゆびきも美味しいけど、麗水も美味しいから」と。バンチャン(小皿料理)が並ぶ。「さすが海辺の街。魚介類が多い! 玉ねぎのブロックにニラ? サムにするのかな」と思っていると、山盛りの刺身に続き鍋がセットされた。刺身としゃぶしゃぶを同時に楽しむようだ。なるほど。韓国のこういうところが大好きだ。
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鱧の刺身と鍋に舌鼓 |
出汁に野菜が入った鍋に火がとおってきた。そこに店主がスッと現れ鱧を入れ、ふわっと花が開いたようになったところで醤油やニンニク、唐辛子などを入れた合わせ醤油(タレ)につけ、ひと口いただく。おお、なんとまろやかで淡泊。そこにピリッ感と醤油の旨味が加わって何とも旨い。
刺身を食べようとすると友人が「こうこう」と、お手本を見せながら「もう韓国式の食べ方は慣れていると思うけど、刺身に生の玉ねぎとニラもサム(包む)で食べてみて。淡泊な鱧の味に玉ねぎの辛さと甘さ、そしてニラの風味が加わって美味しさが増してくるから」と。刺身にはワサビという感覚しかないのだが、韓国式の食べ方だと自然と野菜も多く食べることになるのがいい。テーブルには特性の合わせ味噌と醤油だれが用意され、ここに美味しく食べる工夫がある。
初秋のころとなった。麗水の鱧料理は10月まで。ふっくらとした鱧が夏の終わりを告げている。
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。