◆ドラマと文学で探る韓国 「自分を探しに行く物語」①

ドラマ「サイコだけど大丈夫」×小説「アーモンド」
日付: 2021年07月07日 00時00分

 韓国ドラマはラブコメや時代劇であっても、現代社会の問題点を描こうとする姿勢が非常に強い。そこには制作陣の使命感のようなものが垣間見える。韓国人は基本的に政治や社会について、躊躇なく自分の意見を語るうえ、自分なりの解決策を人前で披露することにも抵抗がない。どんな社会にもひずみはあるものだが、良くしようと努力するのと、傍観するのはまったくちがう。今回はそんなことを考えさせられる作品を選んでみた。

キム・スヒョン、ソン・イェジ主演で韓国のみならず、アジア各国、南米などでも高い評価を受けた『サイコだけど大丈夫』はラブロマンスの要素とヒューマンドラマの感性を融合させた感動作だ。何より秀逸なのは、問題提起だけでなく、考え抜かれた決着のつけ方だろう。一話ごとに既存の童話を絡めたストーリーが展開し、主人公たちのさまざまな問題点が少しずつ解決の糸口を模索していく。こういったドラマでは、ともすれば制作側の意図が見透かされてしまい、オチはこうだろうと憶測を呼びかねない。だがこのドラマはしっかりとした骨太のシナリオによって、どう着地するのかを最後まで視聴者に考えさせる。そしてその到達点も、納得させられるものだといっていいだろう。
主人公のガンテは早くに親を亡くし、自閉スペクトラム症の兄、サンテを抱え、自分のことは後回しにして、兄の面倒を見ることだけに人生を費やしてきた青年だ。一方、ヒロインの童話作家ムニョンは奇妙な家庭環境の中で愛を知らずに育った、風変わりな女性。彼らがどうやって愛をはぐくみ、自分の環境を克服していくか、その過程が視聴者の大きな共感を呼んだ。

さて、今回の小説のほうはというと、2020年の「本屋大賞」翻訳小説部門第1位に輝いた『アーモンド』を紹介しよう。生まれつき脳の偏桃体(アーモンド)が小さいために、怒りや恐怖、喜びや悲しみという感情を持たない少年、ユンジェの物語だ。目の前で母と祖母が通り魔に襲われても、ただ見つめているだけ。あとで人からそのことを聞かれても、ありのままのことしか言えない。そんな彼を遠巻きにする周囲。
ところがある日、彼の前に現れたのは、彼とは真逆の激しすぎる感情を持った少年だった。この少年、ゴニとの出会いが、ユンジェの人生を変えていくことになる。
著者のソン・ウォンピョンは映画監督、シナリオ作家としても活躍する人物で、そのせいか、この小説も非常に映像的な印象を受ける。

両作品とも、登場人物たちが人とのかかわりあいの中でさまざまな感情を学び、その感情が引き起こす新たな世界の扉を自分自身の手で開いていくという仕掛けに、魂を揺さぶられる。
また、人と違うというだけで、生きづらさを抱える彼らに、周囲はどのように接していくのか。そこで、社会のありかたが試される。彼らと積極的にかかわれるか、傍観するか、物語は常に視聴者を、読者を試しているのである。

青嶋昌子 ライター、翻訳家。著書に『永遠の春のワルツ』(TOKIMEKIパブリッシング)、翻訳書に『師任堂のすべて』(キネマ旬報社)ほか。


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