キスン便り(第38回) 韓国と日本の相違23 韓国料理

日付: 2021年04月28日 19時18分

 実は私は、韓国に行くまでは、韓国料理ほど不味いものはない、と思っていました。韓国で初めて韓国料理を食べたとき「こ、こんなにもうまいのか」と愕然としました。それで自分なりに何が違うのかを分析してみました。
決定的な差は水です。水が違うので、日本で韓国料理を作ってもまともな味にはなりません。韓国人が日本で許可を得て作っているという、生マッコリを飲んだことがあります。防腐剤入りの韓国から輸入したマッコリよりは遥かにおいしいです。しかし水が日本の水ですから、韓国の生マッコリほどのキレやコクがありません。
逆も真なりで、日本料理は韓国の水ではまともな味になりません。日本料理を世界遺産にしようとフランスでデモンストレーションをするときに、日本の水を何トンも持っていったそうです。フランスの水で昆布や鰹のうまみたっぷりの出汁は出来ません。この話を聞いたとき、当然だな、と思いました。
かみさんがお世話になった尼さんに日本の高級茶をお土産として持って行ったことがあります。かみさんが「味はいかがですか」と尋ねたところ、その尼さんは「正直に言って、たいしたことない」と答えたそうです。かみさんが私に「何でだろう?」と聞くので「羽田で日本の水も一緒に買って行かないからだよ」と答えました。日本のお茶は日本の水で入れないと、うまいお茶にはなりません。韓国の水は硬水なので、お茶の成分が硬水中のミネラルと反応して、色は茶色く濁るし、味も香りもがた落ちになります。どんな高級な茶葉でも番茶の味になります。お世辞にも、うまいとは言えなかったことでしょう。
ついで塩が違います。韓国の塩は塩田で結晶化させた大粒の自然塩です。私の小さい頃の日本の塩は工業的に作った百パーセント純粋な塩化ナトリュウムでした。うまみも何もありません。こんな塩で料理を作っていたら日本料理でも不味い料理になります。
ニンニクも唐辛子の味も違いました。韓国のニンニクは生でも辛くありませんし、唐辛子にはうまみがありました。日本のものは辛いだけでうまみがありません。
最後に白菜が違います。韓国の白菜は水分が少なくてシャキシャキでした。日本のものは水分が多いので、一度塩を振って、水抜きをしてからでないと使えません。私が小さい頃の多くの在日の家庭では水抜きをしないでキムチを作っていたので、キムチはびちゃびちゃでした。そしてやたらと辛いばかりです。そんなキムチは一度もうまいと思ったことがありませんでした。当時の私は偏見にも支配されていたので、こんなものばかり作っている韓国人は味覚オンチに違いない、こいつらはみんな馬鹿だ、と思っていました。
ところが韓国に行ってびっくりです。世の中にこれほどうまい料理があるのかと、度肝を抜かれました。
ただし牛肉は日本の方がおいしいです。韓国で「プルコギ」というと、細切れ肉を砂糖醤油で味付けしたものが出て来ます。これは不味いです。日本でもそうですが、韓国でうまい牛肉を食べたかったら、部位を指定しなければなりません。そういう高い肉を頼んでもまだ日本の方がおいしいです。韓国に住んでいた頃、有名な韓国料理店で私と家族が普通の韓国料理を食べていると、日本の観光客の一団がやって来て焼き肉を食べ始めました。肉以外の料理は殆ど頼んでいません。それを見て、わざわざ飛行機代を使って不味い肉を食べに来るとは、知らぬが仏だな、と思ったことです。なお豚は韓国もおいしいです。
韓国に行ったことで、一世たちはこれだけうまい物を知っていながら、日本の地であれだけ不味い韓国料理を毎日食べていたのだと知り、愕然としました。毎日、毎回食べるものが不味いというのは、なんとも哀れな人生だったと思います。

李起昇 小説家、公認会計士。著書に、小説『チンダルレ』『鬼神たちの祝祭』『泣く女』、古代史研究書『日本は韓国だったのか』(いずれもフィールドワイ刊)がある。


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