韓国スローフード探訪48 薬食同源は風土とともに

公州の茹で豚でパワーチャージ
日付: 2021年03月17日 00時00分

 韓国ならどこでも食べることができる茹で豚(ポッサム)。生姜と玉ねぎを入れて茹でたもので、ロースや三枚肉を使うのが一般的。油も塩も使用せず、さらに余分な脂も落ちるのでとてもヘルシー。玉ねぎと生姜の働きで臭みもない。食べる時は、エゴマの葉や白菜など葉物野菜にキムチや唐辛子、ニンニクと一緒にサム(葉物野菜にキムチや唐辛子などを一緒にして巻く)にしていただく。ご飯のおかずにも酒のつまみにも向いている。
春先に、百済の都として知られる公州と扶余を取材で訪れた時のこと。いつもはソウルから扶余に向かい、その後に公州へと向かうのだが、この日はKTXが開通したばかりということもあって短い区間だが太田まで利用した。帰りも太田からというスケジュールを立て、交通手段も確認した一泊二日の取材の旅だった。
初日は扶余を歩き回り、翌日、公州に移動し、国立公州博物館から百済第25代王とその王妃が眠る武寧王陵へ。そして、市内北部にある公山城を回った。春先とはいえ汗ばむような陽気。わずか110メートルほどの公山に広がる公山城を後にするころは、疲れがドッと出ていた。
特製タレでやみつきのポッサム
 目的の取材はこれで終わったと思ったのだが、食事処を確認する必要があった。夕食にはやや早かったが以前、訪れて印象深かった食堂が公山城の入り口からほど近いところにあるはず。「あった!あった!」。見つけた瞬間、疲れも吹っ飛び食堂へまっしぐら。
夕食には早い時間ということもあって、ほぼ貸し切り状態。店主らしき若い男性が「日本人ですか?」と、話しかけてきた。同行していた通訳の方が、取材で公州に来ていること、この店は前にも訪れているということを話している。会話の中で少しだけ聞き取れたのは、店をきりもりしているのはその方のお母さんということ。どうやら今日は、平日で暇だから遊びに出かけているようだった。前回と同じように茹で豚肉のサムパブを注文した。
ここで食べた茹で豚のサムパブ。特性ダレというのか薬念(ヤンニョム)の味なのだろう。まろやかというか後味がいいというか、とにかく印象に残り「もう一度あの味を」と思っていた。
店の構えは同じだったが小皿料理が増え、より充実していた。サムにする野菜もかなり多く、驚いていると「サービスですよ」と店主は笑いながら、「韓国ならどこにでもある料理だけれど、扶余では食べたの?」と聞かれ、「扶蘇山城の船着き場のところでも食べた」と、話した。「そこも美味しかったでしょ。薬飯(ヤッパブ)を食べた?」「はい」「それは良かった。いろんなサムパブがあるから」と。そうこうしていると店の方が茹で豚とキムチなどを盛り付けた大きな皿を運んでくれた。さっそくエゴマの葉をとり前と同じようにしてパクリ。柔らかな豚肉と酸味と辛みのあるキムチ。エゴマの葉のさっぱり感。ちょっとだけ入れてみた青唐辛子は辛さより甘味を感じるほど。オモニの作る薬念の力で食材のすべてが調和しているのだ。茹で豚の脂身も味わい深い。
歩き回り、疲れきっていたこともあるが、茹で豚もご飯もおかずも箸が止まらない。タレの秘訣はあえて聞いていない。きょうはいないというオモニが前に話してくれたのは「薬念は、唐辛子の挽き方というか細かさ、それと自家製の味噌が大事。どこの家でも安心できるものを使うのが当たり前でしょ。特に話すほどの秘訣なんてないよ」とおおらか。
百済の都はサムパブの里。と、勝手に決めている。
茹で豚を作ってポッサムに、サラダにと定番料理のひとつとなって久しい。

 新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。


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