ノースコリアンナイト~ある脱北者の物語(45)冬の日光浴と、不平等な北の教育制度

「北送事業」から61年
日付: 2021年01月27日 00時00分

 この時期の北朝鮮はとても寒く、三寒四温がはっきりしている。
「3日間耐えると暖かくなる、3日を乗り越えよう」と、この季節にみんなで励ましあう決まり文句だ。三寒の日も四温の日もマイナス気温だが、体感は1℃の上がり下がりを大きく感じる。1月の太陽の日差しが眩しい昼間は、この陽光を浴びられる瞬間がいちばん幸せな時間だ。組織の集まりなどがなく、短い冬の陽をいっぱいに浴びられる極楽を楽しむ老若男女が街にあふれている。
立っている人、座り込んでいる人、おしゃべりする人、頭のシラミを取る人、赤ちゃんを抱えている人、みんな眼を閉じていた。自然に日光浴をする席が決まって、新しく入る人や日差しを遮る者は子どもでも容赦なく悪口を浴びる。だが90年代後半からは、この日光浴の風景が見られなくなった。
太陽光を浴びながら死んでいく人たちが増えて、極楽の場所のはずが、本当に死に場所になったからだ。
冬に、日差しが入る窓際の席に座る者は権力者の象徴だ。部屋に力がある者が多いと、周期的に席替えをする。これは小学校でも同じだ。反対に、夏の窓際はいちばん力がない者が座る。教室には冷房設備も、太陽光を遮るカーテンも存在しない。性能が悪い暖炉はあるが薪や無煙炭などがないので機能しない。暖炉は、私にとって嫌な存在だった。小学校から大人になっても、暖炉用の薪と無煙炭などノルマを出せなくて罰を受けたり学校から追い出されたりした。設備が悪い暖炉はあっても寒かった。煙りで目が痛く、黒板も見えず事故も多かった。一酸化炭素中毒で死者が出ても大きな問題にならなかったので改善なども考えられない。その暖炉も「苦難の行軍」時には盗まれて、安堵したものだった。
この時期に多発する死者の死因のいちばんは金氏体制である。北朝鮮と比べられないほど暖かい日本の冬だ。その上、どこも冷暖房システムが完備されている。このような環境で暮らしている朝鮮学校の先生たち生徒たちは、金氏一族「万歳」を叫びながら北朝鮮の一般人の苦しみを顧みない。
彼らが朝鮮民族と名乗るのが恥ずかしい。朝鮮民族は13歳の少女を拉致して返さない、非道な民族ではない。彼らは人間とは呼べない金氏一族派である。北朝鮮の人々から送られた祖国からの奨学金を、金氏一族のポケットマネーと信じ、金氏一族に忠誠を誓う。同族だと言いながら北朝鮮の一般人の苦しみを増大させている。北朝鮮にいる自分たちの親族のみが安楽を保証されればいいのだと思う、金氏一族と同じ野蛮人である。この群れのある人の話をする。
北朝鮮で、私が児童学生図書館で教えた生徒の中にドンスという子がいた。
北朝鮮は表向き無料平等教育を唱えていて塾などはない。国が必要とする人材を別方法で教育しているが、身分などの条件が多い。それをクリアできない子どもは、特別な優秀者でない限り勉強できる機会がない。児童学生図書館には学校で教えるものより少し上のレベルの参考書があった。
特別教育場のテキストなどは、普通の学生には入手できない。例えば、優秀者が通う「外国語学校」は成績が優秀でも親が幹部でないと入れないし、逆に勉強が出来なくても幹部の子弟だと入れる。この学校のテキストなどは一般人は絶対に見られない。
私は中学生のときに、興味から「外国語学校」に通う子に「テキストを見せて」と言って騒ぎになったことがある。北朝鮮が喧伝する「平等」を、私は体験したことがない。
私の身分では就職できない図書館に、将来の夫の親族が朝鮮総連と太いパイプがあって職を得た。この図書館に参考書を見にくる子どもたちに、分からないことがあると教えていた。いつからか周辺の勉強したい子どもたちが通ってきていた。
後に私の命の恩人になる館長先生の好意で、質問してくる子どもたちに教えていた。(つづく)


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