ノースコリアンナイト~ある脱北者の物語(44)北の思想教育に利用される在日朝鮮学校の平壌公演

「北送事業」から61年
日付: 2021年01月01日 00時00分

 北朝鮮では長く感じた時間が、日本ではあまりにも短く感じられる毎日だ。毎日しないといけないことを計画して、やることが残っているのに一日が終わる。悔やみながらも、やりたいことを自由に出来るこの幸せ! たまに夢ではないかと思う。一方、北朝鮮にいる生死も分からない兄弟のことを思うと、幸せに自由を満喫している自分が最低だと思えて、より北朝鮮が嫌いになる。
北朝鮮の金正恩とその妹は昨年から、私のように北朝鮮を離れて逃げて来た人たちの、家族同士の手紙のやり取りを禁じた。4年前からは、北朝鮮の人権問題などで活動している脱北者に対し、手紙のやり取りなどを全面的に禁じていた。また北朝鮮に残る家族に対する嫌がらせもひどく、普通でも苦しい生活なのに私のせいでより大変だと思うと胸が詰まる。連座罪で大変な北朝鮮の兄弟に向けて「ごめんね」と何の助けにもならない謝罪を毎日している。
昨年も平壌に大使館を置く各国の駐日大使館に、顔でも声でもいいから、手紙だけでもいいからやりとりできるように協力をお願いした。家族と会うのは人間として当然の権利なのに…返事も結果もゼロだが、今年も国連などの機関に訴え続けるつもりだ。
元日から北朝鮮の一般の人たちは、国からの沢山の課題を抱え、新年を祝う気分ではなかった。身体を動かす課題はノルマがきつくてもできるが、物を調達する課題は困難だ。お金さえあればクリアできるけど真冬の寒さも凌げない暮らし向きで、大人たちのため息が正月から重かった。
今年一つ楽になったと思うことがあって、それはコロナ禍のせいで在日朝鮮学校の子どもたちが毎年の「学生少年たちのお正月公演」に参加できないことだ。
朝鮮学校の子どもたちの「学生少年たちのお正月公演」参加は、1月の全国民の思想教育素材になっていた。公演で朝鮮学校の子どもたちが涙を流しながら、在日朝鮮人一同を代表して金氏一族の恩恵に感謝して忠誠を誓うと、北朝鮮の宣伝扇動部は全国の講演会で「日帝下で暮らしながらも偉大なる首領さま、指導者さまのご恩に感謝して忠誠を誓っているのに、この国で住んでいる幸せに、より高い忠誠心で恩返しするよう」と力説した。そして課題が未達成だと、日帝下で暮らしている在日朝鮮人より忠誠心が足りない、この国に住む資格がないと、まるで思想犯の扱いだ。
国からの情報しかない北朝鮮で、住民は昔から今も日本を日帝だと思っている。帝国主義が民主主義より遥かに悪いことは知っていて、「朝鮮民主主義人民共和国」と呼ぶ自分の国より酷い国だと洗脳教育で思い込んでいる。世界を知らない1960年以降に生まれた北朝鮮住民たちは、「我が国が偉大なるリーダーを頂く世界一幸せな国」だとする金氏一族の言葉を信じて、貧しく厳しい今の生活が世界一幸せな暮らしだと思っている。
1959~84年まで、10万人近くの在日コリアンや日本人妻など、日本国籍保有者が北朝鮮に渡り酷い監視と差別と政治的・社会的弾圧を受けて政治犯管理所(政治犯収容所)に収容される厳しい扱いをされていたのは、彼らが金氏一族の嘘を見抜いていたからであった。北朝鮮の1940年以前に生まれた人たちは大体、「日本植民地時代より酷い」と陰でコソコソ囁いていて、それを表立って言った人はみんな消えた。
今回を機に、在日朝鮮学校の子どもたちが北朝鮮の政治行事公演に参加するのを全面的に止めることを願う。食べ物がなく家庭を手伝って学校にいけない子どもたち、学校から出される古鉄・ウサギの皮・セメント・お金など、30種類を超えるノルマをクリアできなくて学校に行けない北朝鮮の子どもたちを相手に、金氏一族と当局者たちの手先になって、思想教育素材として洗脳教育を助長する行為を中止するべきだ。日本で同胞である朝鮮総連と朝鮮学校を非難するのはとても悲しい。
(つづく)


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