韓国スローフード探訪40 薬食同源は風土とともに

整腸作用のある梨とともにユッケと晋州ビビンパプ
日付: 2020年10月21日 00時00分

 
梨が添えられているユッケ(写真=韓国観光公社)
取材で韓国を訪れるようになってから24年ほどになる。最初は韓国料理の辛さが苦手で、なかなか食が進まなかった。数日間、ソウル市内のさまざまなところを訪れているうちに韓国料理のバリエーションの豊かさを知り、1週間が過ぎたころには食事時間が楽しみになっていた。飲食店を訪れる度に日本人だとわかると「辛いのが苦手な時はこうして食べるといいから」と、店の人が丁寧に教えてくれた。
食べ方もわかり、メニューも韓国語で言えるようになってくるといろいろな料理をどんどん試してみた。驚いたのは、おかずの豊富さと発酵食品の多さ、さらに自家製の味噌や醤油のおいしさだった。評判の店には、やはり理由があるのだ、と改めて感じた。「何だかすごい」と韓国料理に俄然、興味がわいてきた。
その大きなきっかけはソウル市内にある肉料理店での出来事だった。カルビなどの取材を済ませた時、「韓国に来たらユッケを食べないと」と店主に言われ、撮影の準備をしようとすると「仕事の疲れをユッケでとって」と振る舞ってくれた。だが当時、「生のままで肉を食べるなんて、お腹を壊すに違いない。食中毒になったら大変」という気持ちが強く、ためらっていた。こちらの様子を察したか、店主は「消化を助けるためにユッケには必ず梨を使っていてね。梨には整腸作用があるし、疲れをとって、熱も下げるといわれていて。昔からユッケに梨は当たり前になっているから」と教えてもらった。「なるほど」と思い、ユッケを生まれて初めて食べてみた。
ユッケのユッは肉のユク。ケはフェで刺身のこと。連音化でユッケ。牛肉のランプと呼ばれる部分を細かく刻み、ネギやゴマ、松の実などの薬味とゴマ油や醤油、砂糖、コチュジャンなどの調味料で和え、千切りにした梨と卵黄をのせる。食べる前に全体をかき混ぜる。
肉の鮮度の良さは言うまでもない。甘味があり、とろけるような柔らかさ。それにゴマの風味、甘辛さ、香ばしさなどが加わり極上の一品であった。諸外国から伝わった料理が韓国内で発展した一例とも思えた。なかなかの味に終始無言で食べ終えると、店主から「もし、釜山に行くことがあったら、釜山からバスで晋州に行くといいですよ。そこはユッケビビンパプ(晋州ビビンパプ)で有名なところだから」と教えてくれた。地図を広げてみると釜山から西へ行ったところにその町はあった。
晋州のユッケビビンパプ(写真=韓国観光公社)
 初めてユッケを食べてから2年後のこと。釜山から晋州を目指した。やきものの窯を訪れるために晋城に宿泊するためだった。慶尚南道晋州は内陸部にあり、南江が市内を流れ、川沿いにはその昔、外敵の侵入を防ぐために築城された晋州城を見ることができる。この城は、壬申倭乱(文禄・慶長の役)で攻防戦の舞台となった。この時、攻め入る日本軍に立ち向かう兵士たちに何とか力を出して欲しいと考えられたのがユッケビビンパプと言われている。7種類ほどのナムルに細切りにした牛肉を混ぜたもので、その後、家庭料理として受け継がれた。1951年ごろ、ある宿屋が朝食にこのビビンパプを客に出したところ評判となり「晋州ビビンパプ」として全国に知られるようになったと伝わっている。
整腸作用を考え、梨と一緒にいただくユッケ。韓国料理のすごさは健康を考えた料理のスタイルが続いていることにある。
秋も深まり、韓国の山々も秋色に染まるころ。韓国旅行ができる日を待ちわびながら、行ったら何を食べようか…とあれこれ考えている。

 新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。


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