ノースコリアンナイト~ある脱北者の物語(40)朝鮮労働党員になるため、全ての尊厳を犠牲にした女性たち

「北送事業」から61年
日付: 2020年10月21日 00時00分

 人間ならば、精根尽き果てた人をまずは助けてあげてから漂流していた事情などを調べるのが普通だ。しかし9月22日、北朝鮮側は、自国海域内を漂流していた韓国の公務員を海に放置したまま取り調べをして、そのまま海上で射殺し、船ごと燃やした。公務員の遺体は未だに見つかってない。
一人の命を無惨に扱って罪悪感も覚えない北朝鮮側は、韓国海軍などが遺体を探しているのを妨害し脅迫し、脱北者たちの「北朝鮮は人権など全く存在しない地獄だ」との言を裏付けた。
韓国の被害者家族は、胸が張り裂けるような苦痛の日々の中で、遺体だけでも戻ってくるのを待っている。北朝鮮は、10月10日に北朝鮮労働党創建75周年行事を盛大に行った。行事に参加した一般人は今回の事件を知らないからともかくとして、金正恩とその側近たちは事情を知りながら平然と振る舞った。
脱北者らを通じてではなく、自らの行動によって、75年前からの北朝鮮の存在が百害無益である事を証明している。
北朝鮮では党が最高地位にある。組織と党員がもっとも偉大で、一番良い身分だ。その権力と威勢は言葉で表現出来ない。そのため、北朝鮮では18歳から朝鮮労働党員になることが最優先目標とされ、そのためには手段を選ばないのが忠誠心だと評価されている。北朝鮮のたくさんのスローガンの中に、「偉大なる首領さまと祖国と党のために身と心すべてを捧げよう」と言う呼び掛けがある。その後半部分だけを取った「党のために身と心すべてを捧げよう」というのが社会論になっていて、党員になりたい人特に女性は、このスローガンを性奉仕と解釈し、若い女性から家庭を持っている女性まで、「朝鮮労働党員になれるなら…」と、性奉仕を含む全ての要求に自らを捧げる覚悟が出来ていた。
結婚前に党員になっている女性は後ろ指を指されていた。表で朝鮮労働党員を非難すると大変な目に遭うため、みんな裏でコソコソと陰口を叩いた。党員の家庭喧嘩の内容は、主に「どうやって党員になったか」で、お酒を呑み過ぎた喧嘩のときには人間の本性が現れて、みんなを悲しませていた。
一方、入党させる際の審査や調査過程にほんの少しでも携わっている人は、それを「欲望を満たす絶好のチャンス」だと思って、財欲・性欲・出世欲などあらゆる自分の欲を満たせることに大喜びしていた。入党希望の女性が拒むと、「『党のために身と心すべてを捧げよう』という覚悟が足りない」とそのスローガンを決まり文句のように言っていた。末端調査員は、自分の出世の鍵を持っている上司が好むタイプの女性が現れると、上司に「献納」して出世の道と人脈を広げた。
入党に関するもっとも有名な例として、いま金正恩が一番信頼を寄せている最側近の崔龍海がいる。私が朝鮮青年同盟員だった時、彼はその首長だった。彼は全国青年同盟入党突撃隊から美人女性たちを選ばせ、彼女たちの歯を全部抜くなど、醜悪極まりない行為を10年以上行っていた。発覚してからも何の法的処罰もなく革命化労働だけをして、彼と繋がった女性達は全員処刑された。その中に私の知り合いもいた。当時彼女たちには「自業自得だ」と非難が殺到したが、私が一番驚いたのは知り合いの女性の家族の行動だった。娘の死に家族はあまりにも淡々としていて、軍への入隊を控えた妹は入党に有利な部隊に行くため、賄賂を持って両親と東奔西走していた。
非道理は非道理に繋がり、循環する。入党を含む全てが「悪」の塊になっているのが朝鮮労働党で、それを北朝鮮では「栄光燦爛たる偉大な朝鮮労働党」だと唱えている。男性が労働党員になるための「武勇伝」も凄まじい。
(つづく)


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