【映画】『長沙里9.15』

政権ごとに変化する朝鮮戦争映画
日付: 2020年09月30日 00時00分

学生兵を率いるイ・ミョンジュン大尉(キム・ミョンミン、中央)©2019Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

 1950年9月15日、韓国南東海岸の長沙里に上陸した学徒兵の物語だ。私は、この映画の製作会社『泰興』にもともと不信感があり、映画館での観覧を敬遠していた。最近、ネット配信されるようになり、初めて視聴した。
日本版の映画公式サイトによると、この作戦は「仁川上陸作戦を成功させるべく、軍上層部が立てた無謀な陽動作戦」であるという。訓練期間わずか2週間、平均年齢17歳の772人の学生兵たちが主人公だ。「使い古された武器とわずかな弾薬、最小限の食料だけを支給された彼らは『捨て駒』だった」と説明されている。
だが、歴史の真実はかなり異なる。
仁川の上陸作戦開始は15日午前零時である。長沙里の上陸開始は同日午前6時だ。陽動作戦にしては遅すぎる。
長沙里作戦を1次史料に当たって検討したナム・ボラム(韓国国防部軍史編纂研究所員)は、陽動作戦説を一笑に付す。彼によると、この作戦は北朝鮮軍の洛東江包囲網を背後から突き、補給網を遮断する別個の撹乱作戦だったのだ。彼が番組を持つ韓国「国防テレビ」で指摘した事柄だ。
ところが、この映画などでは、群山(西海岸)や注文津(東海岸)などでの陽動作戦と混同され、仁川作戦と連動する「神話」として再創造されたのである。映画では「学徒兵=捨て駒」性を強調して、「無謀で無慈悲な米韓軍幹部」が登場するのだ。
「泰興」は、かつて林権澤監督『風の丘を超えて』(原題「西風制」、1993年)など優れた映画を作った。ところが最近は政権の変化に応じて、朝鮮戦争の映画を変容させてきた。保守政権下で作った『戦火の中へ』(2010年)『オペレーション・クロマイト(仁川上陸作戦)』(16年)は「クッポン(国家ヒロポン)映画」と酷評され、左派政権下の今回は「米韓軍批判映画」というわけである。
同社代表チョン・テウォン氏は、韓国経済新聞のインタビュー(19年9月24日)で、「金正恩と会談した政権下で作った映画なので、反戦映画にした」と語っていた。私はこの記事を読み、映画館で見るのをやめたのである。
左派であれ右派であれ、韓流シネマに「歴史考証」は希薄だ。同族同士が殺し合った朝鮮戦争の悲劇をどう描くかは、韓国人の表現者にとって最大のイシューのひとつだ。兪賢穆監督『長雨』(1979年)などは最高傑作の一つだ。最近の韓国の「朝鮮戦争映画」は劣化しつつある。これが私の偽らざる印象だ。

(下川正晴 毎日新聞元ソウル支局長)

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