ノースコリアンナイト~ある脱北者の物語(38)「民主主義」北朝鮮の恐ろしい連座罪と政治犯収容所

日付: 2020年09月16日 00時00分

たんぽぽ

 私の人生の大事な時間をゴミみたいな人間たちの話で消費したくないし、自分が生まれた故郷で起きた、今も起きている不幸な出来事について語るのはとても辛いことだ。しかし国境を超えて逃げた多くの脱北者の中で、わずかに生き延びて自由世界にたどり着いた北朝鮮の人たちは、真の民主主義が北に行き渡る日まで、金氏独裁者と彼らに追従して利益を得ている同じくゴミのような人間たちと戦う使命があると、その使命は他人のためではなく自分のためであると思う。
一回の食事が大変だった北朝鮮での暮らしと現在の生活は、「人間の生活」という物差しで比べられるものではないし、比べることもできない。あえて言うなら、今は比べることが出来ないぐらい幸せだ。モノがいっぱいあるから幸せではなく、自分の時間を自分で使えるからだ。でも、この幸福感は心の底からではないのだ。
毎回、食事のたびに北朝鮮で餓死して組織ごとに埋めた人たちの顔が浮かび、生死が分からない北朝鮮にいる兄弟の顔が浮かび、疲れたりお腹が空いたらいつでも食べられる幸せとともに辛さも感じ…北朝鮮が変わらない限り、私は心の底から美味しいご飯を食べられない。自分の幸せのために、わずかな力ながら北朝鮮と戦って、世界に二度とこのような社会と独裁者が現れないように願い、大変なこの文章も書き続けている。
9月9日は、北朝鮮が民主主義という単語を国名に入れて誕生した日である。
金日成の最大業績とされる一つで、北朝鮮では8月15日の政治行事が終わると、すぐこの日の政治行事の準備に国民を総動員するのだ。うんざりしたが、自分の命だけではなく家族と周りの、自分の大事な人たちが酷い目に遭うから従うしかなかった。北朝鮮という国の恐ろしさの一つが、この「連座罪」だ。
「連座罪」とは金氏一族に背く人は容赦なく殺して、その血縁から3代までは政治犯収容所(北朝鮮では理由があって政治犯管理所と呼ぶ)に収監し、4~5代までは追放、その次の血族は出世など出来ない社会の最低階層として生き地獄に落として、結果的に金氏一族の意思に従わせるシステムである。この「連座罪」が金氏独裁者たちを今日まで延命させる重要な鍵になっているのだ。
北朝鮮の中では、政治犯収容所の位置やその中で何が起きているかは誰も知らないし、秘密にしている。今は脱北者によって世界に知られ、北朝鮮国内にも少し情報が入っているのだ。北朝鮮当局が秘密にしていて、誰も知らない政治犯収容所なのに、北朝鮮国民は何故そんなに怖がっているのか。
私も、組織の人が「涼しい所に行きたいか」と言った瞬間、背中に汗が出たぐらい怖がっていた。北朝鮮で「涼しい所」は政治犯収容所か、それに入る関門の監獄を指す言葉だ。政治犯収容所送りの監獄で生き延びる人は少ないと、ひそかに噂になっている。
私がそれほど政治犯収容所を怖がっていたのは、北朝鮮当局が流したテレビ番組の中で第二次世界大戦の記録映画としてもっとも多く見たナチスによるユダヤ人収容所の記録映画のせいだった。
国民に向けて一年365日、新聞でもニュースでも真っ赤な嘘を、画像まで作って放送するのは大変で、電力不足のなかでも毎日決まった時間にユダヤ人収容所の画像を流した。暗に政治犯収容所の恐ろしさを国民に「見本」として見せたわけで、私だけではなく北朝鮮国民の誰もがその記録映画から政治犯収容所を連想していたと思う。
私は日本に来て、法律を勉強して自分で金氏独裁者らとその側近たちに対して模擬裁判をやってみたことが何回かある。彼らを裁くというより、同じ人間として許せないだろうかと思ってやってみたが、こんな残忍で悲しい歴史まで利用して国民を奴隷にした金氏独裁者らを許す方法は未だに見つからないのだ。
(つづく)


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