【映画】『十年』(香港)

5年後に出現した恐怖の近未来
日付: 2020年07月29日 00時00分

少年団に入った息子に父が伝えることは©”Photographed by Andy Wong, provided by Ten Years Studio Limited″

 香港での反政府的な動きを取り締まる『香港国家安全維持法』が6月30日に施行された。最高刑は無期懲役であり、外国人にも適用される。
2015年に香港で制作・公開されたオムニバス映画『TEN YEARS(十年)』は、この事態を正確に予告していた。香港の10年後のディストピア(絶望郷)を想定した映画だったが、皮肉なことに、恐怖の未来世界は5年後に出現してしまったのである。私たちは予想以上の速度で「激変する世界」のただ中にいるのかもしれない。そんな霊感を得るのに十分な映画だ。
映画は5本の短編から成る。第1話「エキストラ」は、国家安全法を制定させるために、中国政府の手先たちが暗躍する映画である。劇中の人物から「国家安全法」というキーワードが何度も発せられ、ぎょっとさせられる。第2話「冬のセミ」は古い物が壊される話だ。第3話「方言」は香港で話されている広東語が迫害される悲喜劇である。
第4話「焼身自殺者」はストレートに香港独立問題を描いた。第5話「地元産の卵」は、紅衛兵に似た「少年軍」が香港産の卵を排斥する物語である。映画『十年』はフィクションや寓話を駆使して、香港の近未来を描いていたのである。
この映画は20・30代の監督5人が、制作費約50万香港ドル(約720万円)で撮り上げた作品だ。単館上映から始まったが、口コミで評判が広がり、米国映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)を超える大ヒットになった。翌年、香港のアカデミー賞にあたる「香港電影金像奨」作品賞に輝いたが、中国本土では授賞式の模様すら報道されなかった。
しかし、アジア各国では大きな反響を呼んだ。日本でも17年に公開され、18年には是枝裕和監督が総合監修した日本版が作られたほか、台湾、タイ版も制作された。ところが韓国では、この3カ国版が釜山国際映画祭で上映されたものの、韓国オリジナルは頓挫したようだ。関係者によると「北朝鮮(出身の)監督を入れたい」との希望があったとされている。韓流シネマ隆盛の現況からすると、異様である。
韓国内では、香港版『十年』は今年6月19日になって、ケーブルテレビ局TBSの映画番組「ムービーコレクション」を通じて国内初放送された。インターネットサイトNAVERの映画評では「国内封切り前につき評点は登録できない」との表記がある。
韓国政府や韓国映画界の「香港」に関する無関心は、きわめて異常である。

(下川正晴 元毎日新聞ソウル支局長)

Netflix、TSUTAYA他で。
公式HP=http://www.tenyears-movie.com/


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