【映画】『鬼手』(韓国)

復讐に燃える天才棋士の壮絶な戦い
日付: 2020年07月29日 00時00分

獣性と冷酷さが共存する主人公を演じるクォン・サンウ©2019CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED

 囲碁の映画といえば、すぐに思い出されるのは台湾のイケメン俳優チャン・チェンが昭和の天才棋士である呉清源に扮した『呉清源 極みの棋譜』だ。「碁の神様」とも呼ばれた棋士の知られざる半生を、彼のストイックに対局する映像と共に美しく描いた作品。そのイメージから囲碁は静かなる頭脳競技と思われがちだが、そこにバトルの動的な要素を注入したのが本作である。
真剣勝負の対局にどろどろした怨念を持ち込んだだけでなく、碁盤の外でも命がけの格闘技を展開。静の囲碁と動のアクションを組み合わせた前代未聞ともいえる韓国ノワールの誕生である。
父は自ら命を絶ち、母にも捨てられた少年グィスは最愛の姉までも失ってしまう。地獄のような現実を生き抜く唯一の道は、生前に父から伝授された囲碁を極めること。
その才能を一匹狼の棋士に見込まれたグィスは、山寺の猛特訓で潜在力を開花させ、たくましい青年に成長。やがて裏社会の一癖も二癖もあるプロ棋士たちを次々と退け、とうとう姉を死に至らせた冷酷な棋士ファン・ドギョンへの復讐を果たすべく、人生のすべてをかけた最後の闘いに向かうのだった。
辛い境遇に陥った主人公が、それでも強い克己心により這い上がっていくという展開は、これまでも映画の中で繰り返し描かれてきたことだ。とはいえクォン・サンウ演じるグィスの前に立ちはだかる棋士たちのえぐいことと言ったら…。
さらに猛スピードで列車が突進してくる鉄橋上での命がけの対決や、プロの棋士100人との同時対局といった奇想天外な展開の妙も合わさって、観客は1秒たりとも気を休めることはできないだろう。
囲碁の舞台は「小宇宙」とも言うべき小さな碁盤上。対局は縦45・2センチ、横42・4センチの小さな碁盤をはさんで繰り広げられる「想像上の戦争」とも言えるが、溜まりに溜まったエネルギーが出口を競うように解き放たれて静と動が交差する大立ち回りに入れ替わっていくようにも見えるから不思議だ。「復讐」という怨念の業なのかもしれない。
クォン・サンウが鋼のように鍛え上げた体と目力で、孤独な棋士を熱演している。対局を終えたばかりの碁盤上に出来上がる勢力図。そこに、ある一文字が浮かび上がるという演出も効いている。

(紀平重成 アジア映画ウオッチャー)

公開=8月7日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開。
公式HP=https://kishu-movie.com/


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