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顔なじみの店のご主人 |
参鶏湯や伝統茶などに使われる漢方(韓国では韓方)のひとつにナツメ(韓国語でテチュ)がある。最近では、東京・新大久保にある韓国食材スーパーで生のナツメが売られるようになるなど、広く知られるようになってきた。ナツメはクロウメモドキ科の落葉高木で忠清北道報恩郡慶や尚北道慶山が産地として知られている。生でも食べることはできるが乾燥させると香りも甘さも増し、より栄養価が高くなると言われている。鉄分やビタミン、カリウム、マグネシウムなどを多く含んでいる。
ソウルに行くと決まって訪れるのが、ナツメや漢方材が並ぶ薬令市。見て回るだけでも楽しいのだが、使い方を教えてもらえるのも魅力である。この市場ができたのは朝鮮時代のこと。都であるソウル(当時は漢陽)には、東西南北に門があり、それぞれの門の近くには地方から農産物や特産品を売りに来る人たちが利用する宿が集まり、その中のひとつ東大門の近くには病や貧しい人たちのために宿を提供するところがあり、そこには病気の治療を行う『普済院』があった。その治療院に薬草などが集まるようになり、今のような薬令市へと発展したと伝わっている。
漢方材の店や韓医院が立ち並ぶ市場は、通りを歩いているだけで漢方を煎じる独特の香りが流れ、癒された気分になってくる。店先には参鶏湯に欠かせないナツメや伝統茶で人気のオミジャ、それに数年前から女性たちに人気なのがオリジナル漢方パックの材料を販売している店。地元の人たちの「安心で安全な手作りパック」への関心はとても高い。美食同源なのだろう。
市場には何度か訪れている漢方材の店がある。最初に行った時に「日本人ですか」と声を掛けられたのがきっかけだった。日本語のわかる方がいることもあったが、夏の猛暑が続く時期に訪れた時、店先には特性の容器に入った冷たい漢方茶が用意されてあり、そのお茶の美味しさが魅力になっている。昨年、訪れた時も「何か冷たいものを」と言う友人に、「あのお店までちょっと我慢して」と、いつもの店へ向かった。その日もカラッとした暑さで喉はカラカラ、額に汗が噴き出てハンカチが手放せなかった。
地下鉄の駅から歩くこと数分。いつもの夏のように店先にお茶の容器が見えた。「こんにちは」と声をかけると顔なじみのご主人が「まず飲んで。中に入って飲んで」と歓迎してくれた。猛暑の中でいただく冷たいお茶の美味しさは例えようがない。最初の一杯は味もわからないほど。一息ついて、もう一杯。喉越し爽やか。しかも旨味感のあるお茶。ご主人に聞くと「麦門冬とクコの実を使っている」という。
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薬令市場で薬食同源体験 |
喉や咳によいとされる麦門冬、抗酸化作用などの効能があるとされるクコの実。店の人に作り方を尋ねると分量も作り方も教えてくれた。ご主人は「猛暑の時は、一度身体を冷たいものを飲んでクールダウンさせてから、ゆっくりと休むようにしないと熱中症になるから。麦門冬とクコの実を使ったこのお茶は、夏風邪の予防にとてもいいから、と言っても薬では美味しくないしね」と。
「夏は麦茶」というのが定番なのだが、12年ほど前から薬令市場で購入したオミジャ茶やチョウセンニンジン茶、トゥングレ茶などのティーパックをお湯に入れ、冷やして置くようになった。
今年は薬令市場に行けるのも少し先になるだろう。市場で教えていただいたお茶の作り方を実践しつつ、ティーパックで簡単に『韓方茶』を楽しんでいる。
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。