【映画】『スウィング・キッズ』(韓国)

史実1%の「親共」ダンス映画
日付: 2020年06月24日 00時00分

主人公は捕虜となった朝鮮人民軍の兵士©2018 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & ANNAPURNA FILMS. All Rights Reserved.
 朝鮮戦争の開戦70周年(6月25日)を控えて、北朝鮮は開城工業団地の南北共同連絡事務所を爆破した。それは韓国・文在寅政権の対北追従政策が、無残にも敗退した瞬間でもあった。
最近の韓国映画は北朝鮮を美化したり、融和的に描いたりする姿勢が顕著だった。日本各地の映画館で上映中の『スウィング・キッズ』(2018)も、観念的な「脱イデオロギー」を強調するばかりで、実質的には「親共ダンス映画」とでも言うべき代物だ。
舞台は朝鮮戦争中の韓国・巨済島捕虜収容所。中国や北朝鮮軍の捕虜17万人が収容された場所である。しかし、映画は史実に基づいたものではない。強制収容所で米兵や収容者によるタップダンスグループが編成されたという映画の本筋が、嘘(フィクション)だからだ。映画冒頭のニュース映像も創作である。
日韓の映画評を読んでみると、それに気づいていない観客がほとんどだ。映画館で売っているパンフも「脱イデオロギー」を強調するだけで、非実話の映画だと書いていない。最近の韓国映画にはFACT(史実)とFICTION(虚構)を混在させる手法(FACTIONと自称)が多いが、この映画は「果実(史実)1%」である。
フィクション映画だとしても、リアルな構成力に欠ける。カン・ヒョンチョル監督は『サニー 永遠の仲間たち』(2011)などで才能の輝きを見せたが、壁にぶつかった。思想対立と音楽。こんな重大なテーマは、手に負えなかったということだろう。
巨済島捕虜収容所は、朝鮮戦争史で特筆すべき場所だ。「反共捕虜」2万7389人が中国・北朝鮮への送還を拒否した。台湾には彼らの人生を追った優れたドキュメンタリーがある。そういう意味で、『スウィング・キッズ』は最近の韓流シネマの空疎さを見せつけた。
米国映画に全く同名の映画(1993)がある。カン監督はそれを知らなかったのだろうか。1930年代のドイツが舞台。ドイツの「スウィング・キッズ」たちが時代の波に翻弄され、引き裂かれてゆく映画だ。ベニー・グッドマンなどスィング・ジャズの有名プレイヤーには、ユダヤ人が少なくない。そこに映画の着眼点があり、勝因がある。ダンスシーンも秀逸だった。
韓国映画の特徴は、「時代」を反映するということだ。左派政権による一連の「親北政策」が挫折を強いられる中で、今後、どう変容してゆくのか。韓国映画批評の変わらぬ眼目の一つである。

(下川正晴 元毎日新聞ソウル支局長)

全国公開中=http://klockworx-asia.com/swingkids/theater/
公式HP=http://klockworx-asia.com/swingkids/


閉じる