北の「崖っぷち戦術」ふたたび

18年の板門店宣言破棄脅迫も
日付: 2020年06月17日 00時00分

 北韓がまたも「崖っぷち(追い込み)作戦」を展開し始めた。9日、南北間における全ての通信ラインを遮断し対決姿勢を示したのだ。さらに、通信ラインの遮断は第1段階に過ぎず、近日中に軍事挑発などの強硬手段に出るとの警告まで行い、事態をエスカレートさせている。(ソウル=李民晧)

 興味深いのは、韓国を切り捨てた北韓が国連軍との通信は生かしているという事実だ。板門店に設置された国連軍司令部と北韓軍間の直通電話は、今も正常に稼働している。
今回、北韓が標的としたのは対北ビラ問題だ。北韓の官営メディア「朝鮮中央通信」は、南北通信ラインの遮断を明言し「南朝鮮当局の黙認の元、クズどもは反共和国敵対行為を敢行し、最高尊厳(金正恩)を貶めた」としている。韓国がビラ散布を止めるとしながらも、民間人らによる金正恩を非難する内容のビラの散布を禁じなかったことを指摘した形だ。
しかし、これは単なるこじつけにすぎない。「南韓叩き」は、経済の縮小と蓄積された内部の鬱憤を晴らすために打ち出したカードであるとの見方ができる。コロナ事態の発生で、以前から窮していた北韓の経済事情はより悪化したと報じられている。国連北韓人権特別報告官のトマス・オヘア・キンタナ氏は9日、北韓がコロナの拡散防止を目的として今年1月から中国との国境地帯を封鎖し、貿易が閉ざされコッチェビ(北韓の路上生活者)や、飢えに苦しむ家庭が増えたことを明らかにした。これは、北韓が韓国を叩く際の常套手段として使われるパターンの一つだ。
真意は別にあるようだ。北韓は、米国との関係改善の兆しが見えない中、韓国が仲介役として機能していないこと、開城工団と金剛山観光の再開など北韓政権の「現金窓口」を開かないことなどに対する不満を表したものと分析できる。
今回、北韓は青瓦台―朝鮮労働党間の直通電話を遮断して「対敵事業」などと言及し、2018年の文在寅―金正恩による板門店宣言の破棄へと脅迫を拡げる動きを見せている。金与正(労働党第1副部長)は4日、連絡事務所の閉鎖、開城工団の撤去、9・19南北軍事合意の破棄に言及し、5日後、実際に連絡事務所を閉鎖した。金正恩はこれに先立つ昨年10月、金剛山観光地区の南側施設の撤去を指示した。

韓国チャネルを遮断した北韓だが、国連軍のチャネルはキープしている。写真は1998年5月、6.25当時北韓で戦死した米兵の遺体を板門店から搬入している様子


北韓の次期対南脅迫アクションプランは、南北当局間の合意によって撤去した非武装地帯(DMZ)内監視警戒所の復旧、西海岸の境界地域における海岸砲配置及び対南射撃、開城工団後方部隊の前線配置などが挙げられる。
北韓は脅しを続けている。対南業務担当者のチャン・グムチョル労働党統一前線部長は12日、「南朝鮮当局は今後、実に後悔し辛酸をなめることになるだろう。南朝鮮当局に対する信頼は地に落ちた」と揺さぶりをかけた。 
11日、青瓦台が国家安全保障会議(NSC)常任委員会会議を開き、対北ビラの散布行為を徹底的に取り締まると述べたことについても「牛を無くしてから牛舎を直す(=後の祭り)ということわざがしっくりくる。先に大風呂敷を拡げたのは南韓当局」と非難した。チャン・グムチョルは昨年2月、統一戦線部長に就任した。天安艦爆沈の主導的人物の一人、キム・ヨンチョルの後任だ。
2018年、青瓦台に設置された南北首脳間の直通電話
 一方、金与正が言及した通り、9・19南北軍事合意の破棄についてはまだ不透明だ。2000年代以降、北韓が南北連絡チャネルを断絶したのは計5回。全て北韓の一方的な措置だった。北韓は16年2月、韓国に開城工団運営中断を宣言し、板門店チャネルと軍の通信ラインを遮断した。北韓は18年1月に通信ラインを復旧させた。それ以前には朴槿惠政府初期の13年3月、北韓が一方的に板門店チャネルを遮断させ、3カ月後に何事もなかったかのように復旧させた。
北韓は南北連絡チャネルの遮断と復旧を繰り返すことを、彼らの利益と照らし合わせて調整してきた。韓国から実益が得られる場合はチャネルを復旧させ、今回のように対北ビラ散布といった些細な事案を問題視して連絡を絶ってきた。
北韓の対外交渉の得意技は、相手をとことん窮地に追い詰める「崖っぷち作戦」と、彼らの内部危機の際に打ち出す韓国封鎖戦術「封南術」だ。今回もまた、韓国は北韓の常套手段に踊らされるのではないかと懸念する声が上がっている。


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