荒木 和博
北送事業から61年が経ち、未だに拉致問題が解決しないのはなぜか。
「個人的には、日本自身にも問題があると思う。大きな要因の一つは、戦後の日本の問題だ。自衛せず米国に守ってもらっているという構図が、責任感の喪失につながっている。
つまり、『米国との関係から逸した問題についてはなかったことにしてしまおう』という雰囲気がある。その一つが拉致問題だ」
現在の日本における拉致問題への態度はどのようなものか。
「2002年9月17日の第1回日朝首脳会談で、北側が一連の拉致事案や工作船事案を認めて謝罪したことによって、報道が過熱した。同年10月15日に拉致被害者5人(蓮池夫妻・地村夫妻・曽我ひとみさん)が帰国したこともあり関心が高かった。しかし、現在ではあまり注目されていないように思う。日本で拉致問題が起きたということは認識していても、その詳細は知らない人が多い」
我々は拉致問題にどう向き合うべきなのか。判明しているだけでも拉致被害は12カ国で起きている。日本が当事者意識を持つことはもちろん必須だが、国際的な問題という側面も大きいと感じる。
「現時点では北朝鮮と交渉できる状況ではないが、交渉も含めて可能な拉致被害者は1人ずつでも取り返すべき。しかし最終的なところまで行くには北朝鮮の体制が民主化されなければならない。そのときは他国の拉致被害者も救出できるようになる。そのためには日本国独自の努力と並行して国際的人権問題としての取り組みが成されなければならない。拉致問題のみならず政治犯収容所や公開処刑、脱北者などの人権問題に取り組む人々との協力が必要である」
日本はまだまだ国際的な問題に無関心なように感じる。
「明治時代はグローバル化を目指していたため、国際的な関心は非常に高かった。昨今の雰囲気が当時と対照的なのは興味深い。外国について関心を持たないこと自体は問題だと思うが、要因はさまざまにあると思うので、一口に言い切ることはできない。コロナ騒ぎで自国主義が高まってきていることもあり、岐路に立たされていると言える」
拉致問題における日本の責任は。
「(日本人拉致における)日本政府の責任について言えば、戦勝国に安全保障を依存し、自国民を他国から守ろうとしてこなかったばかりか、その事実を隠蔽してきたという意味で非常に大きな責任がある」
何をもって拉致問題の最終的な解決と考えているか。
「拉致問題に”解決”は存在しない。あえて言うなら、拉致される以前に時計の針を戻せるなら解決と言えるだろう。拉致は不可逆的な問題だ。失われた時間は決して回帰しない。解決ではなく進展という捉え方がふさわしいように思う。
北朝鮮の体制が変わり、北韓住民が自由に自己の意思を表現できるようになることが、拉致問題の最終的な進展と言えるのではないか。拉致被害者の救出のためには現体制の変化が必要不可欠だ」
武漢コロナウイルスによって現体制はどのように変化(崩壊)していくと考えられるか?
「(日本も含めて)正直いったいどうなるのか分からないが、現在すでに北朝鮮内部に感染が相当広がっていることは間違いなく、一方でミサイルの発射や軍の訓練で体制を維持しているという状況だ。崩壊直前であることは明らかで、あと一押しがあれば金正恩暗殺などの急展開があるのではないかと思われる。もちろん、それはそれで日本も含めて周辺国にとって大変な状況になることが予想される」
<荒木和博>
拓殖大学海外事情専門研究所教授。特定失踪者問題調査会代表、予備役ブルーリボンの会代表などを務める。