【映画】『はちどり』(韓国) 少女時代の孤独と喪失感

日付: 2020年03月25日 00時00分

両親や姉兄とソウルの集合団地で暮らしているウニ。ある日不思議な雰囲気の女性教師と出会う©2018EPIPHANY FILMS. All Rights Reserved.
 前評判の高い作品である。2018年の釜山国際映画祭で初上映されると、翌19年にはベルリン国際映画祭をはじめ世界で45の賞を勝ち取る。しかも38歳のキム・ボラ監督が、少女時代の体験をベースに描いた初長編作品だったからである。
1990年代の韓国といえば88年のソウル五輪を成功させ、なお高い経済成長を持続していた。一方、漢江にかかるソンス大橋が崩落するなど、経済発展のゆがみの部分も表面化していた。
その崩落のあった94年、14歳の少女ウニは、両親や姉兄とソウルの団地で暮らしていた。受験教育一本やりの学校になじめない彼女は、男女の友だちや後輩の女子とデートや悪さをしていた。餅屋を切り盛りする両親は、子どもたちの揺れ動く思いに向き合う余裕がなく、そんな両親の目を盗んで兄はウニに暴力を振るっていた。孤独な思いを抱えていたウニの通う漢文塾に、ある日、女性教師のヨンジがやって来る。自分の話に耳を傾けてくれる大人の彼女に、ウニは次第に心を開いていく。
もしかすると、この作品のキーワードは繰り返し現れる「断絶」と「崩壊」かもしれない。昨日まで親しかった男友だちが姿を見せなくなったり、また近づいてきたり。あるいは元気そうだったウニの叔父が急死したり。いずれも予兆が描かれることなく突然現れるので、喪失感も強い。いやなことが次々と起こりウニにとって大事な人が突然いなくなる。このイメージはまさに橋の崩壊と重なる。
橋の崩落は世界を驚かせたが突然、肉親や知りあいを事故で失うという体験は現代社会では2014年のセウォル号沈没事故を紹介するまでもなく普遍的なテーマだ。むしろ日常と言ってもいい。それだけに、主人公のウニが心を開いた漢文塾の女性教師ヨンジから授かった「殴られないでね。殴られたら立ち向かうのよ。黙っていたらダメ」という強いメッセージは、精神面での一つの心構えとして注目に値する。
ウニから借りた本と一緒にまっさらのスケッチブックを贈ったヨンジ。その思いは「あなたの人生を描きなさい」という励ましだったに違いない。

(紀平重成 アジア映画ウオッチャー)

公開=4月25日(土)よりユーロスペースほか全国ロードショー。
公式HP=http://animoproduce.co.jp/hachidori/


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