韓国スローフード探訪30 薬食同源は風土とともに

光州松汀のトッカルビでパワーチャージ
日付: 2020年03月25日 00時00分

トッカルビ(©韓国観光公社)
 コロナウイルスによる感染が世界中に広まりを見せている。手洗いを励行し人混みを避け、換気を心掛け一日も早い収束を願いながら、季節の変わり目ということもあって栄養補強に韓国料理トッカルビ(もどき)を作ってみた。
韓国の肉料理は実に種類が多い。肉の中でも最も高価なのが牛であり、さまざまな部位を余すところなく使うという調理法が古くから根付いている(これは牛に限ったことではない)。一般的に知られている調理法は、クイ(焼き物)・サンジョッ(串焼き)・ジョン(卵入り衣をつけて焼いたもの)・チム(蒸す)・チョリム(煮物)・ポックム(炒め物)・フェ(ユッケのような生もの)・ポ(乾燥させた物)などがある。23年前、ソウルで料理研究家の韓晶惠先生を訪ねる機会を得た。
「ごはんは食べましたか?」と先生からの言葉。「先生の本にも書いてあった」そう思いながら、挨拶をすると「ごはんは食べましたか?と何度も聞かれませんでしたか。韓国では挨拶のように使われていますが、この言葉は食事の大切さや相手を気遣う思いやりを込めたものです」と。「先生の本にも書いてありました。実際に言われてみると、とても親しみを感じました」というふうにお伝えしたように思う。
先生にお聞きしたかったのは薬脯という料理のことだった。「この料理は昔からあったのですか?」という問いに「朝鮮時代の宮中料理のひとつです。牛肉をたたいて細かくし、合わせ調味料を入れて混ぜ合わせハンバーグのような感じに形を作り、小麦粉をエゴマの葉に少量をまぶした上に肉をのせ、2~3日の間、風通しのよいところで乾燥したら冷蔵庫に。そう書いてあったと思います。本では、現代社会に合うように工夫していることと、日本でも食材が簡単に用意できるようにしています。挽肉を使う方法を日本版では紹介しました。料理名からもわかるように、元気を補う働きがあります。寒さが緩んでくる頃は体調も変化しやすいため、特に子供や高齢の人たちの健康を気遣い消化しやすいことと、食べやすいことなどを考えて出来たのだと思います。作り方は簡単だったと思いますがどうでしたか?」と。「本のとおりに作ってみましたが、合わせ調味料と混ぜてエゴマの葉にのせる大きさに形を作りましたが小麦粉をまぶして2~3日乾燥させるという部分をエゴマがなかったのでシソの葉に。2時間だけ放置した後に冷蔵庫に入れてしまいましたので乾燥はしていないです。その日と翌日、ゴマ油で焼いていただきました。おいしくできたと自分では思っています。合わせ調味料に入れたニンニクとゴマ油で焼いたことで香ばしい香りがあって」。先生は笑いながら「今度はソウルで勉強して」と。
この時に先生から「全羅南道の光州に行くことがあったら薬脯に似ているトッカルビを食べてみてください。牛肉と豚肉を合わせたもので、光州松汀駅近くに店が集まっているから」と教わったのだ。
光州松汀は昔から交通の要所として知られている。1970年代に、高価な牛肉と手頃な価格の豚肉を半々にしたトッカルビがこの地で生まれた。豚肉の持つ旨味感が炭火で焼くことで香ばしさも加わり、値段も手ごろとあって、あっという間に広く知られるようになった。
トッカルビ横丁もあって、料理を目当てに訪れる日本人もいるほど。店によって、合わせ調味料に工夫があり、食べる時にはエゴマの葉でくるりと巻いてサムにすると爽やかな風味も楽しめる。肉の持つパワー、合わせ調味料に入っているニンニク、しょう油などどれも身体を守ってくれる物が入っている。炭火で焼きながら食べることでライブ感も楽しめるのだ。
韓国もそろそろ桜の季節。コロナ騒動が一日も早く収束してくれることを祈りながら、トッカルビを食べに行ける日を待つことに。
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。


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