韓国スローフード探訪25 薬食同源は風土とともに

極寒のソウルでアツアツのチョングッチャン
日付: 2019年12月11日 00時00分

 今年も残すところ、あとわずか。クリスマスイルミネーションとお正月用品に「今年も終わり」とせかされているようで、何となく慌ただしい日々。寒い日と暖かい日の気温の差も激しく、インフルエンザもすでに流行の兆し。
寒さが一段と増すこの季節は韓国料理が最もおいしいと思っている。特にチゲやジョンゴルといった鍋は格別。冬に味わいたいさまざまな料理がある中、好きなもののひとつにチョングッチャン(清麹醤)のチゲがある。(チゲとまで言わなくても通じる)チョングッチャンは大豆をやわらかく煮て、藁に包み発酵させたもので日本の納豆と似ているが、納豆のようにごはんにかけて食べたり、手巻き寿司にしたりという食べ方はしない。どちらかというと味噌の一種で、鍋ものに使うことが多いようだ。味をつけるだけではなく、旨みや風味を出すために使われるのだが、栄養価の高さはいうまでもない。忠清道地方の名物料理という説もあるが、韓国ならどの地域でも日常的に食べることができる。ただし、強烈なにおいが伴うため韓国人でも苦手という人も多く、においのしないチョングッチャンも開発されているほどだ。
チョングッチャンチゲ(上部中央)と小皿料理(写真提供=韓国観光公社)
 10年ほど前の冬のこと。ソウル江南の高級ブランド店が立ち並ぶ通りから少し入った閑静な住宅街の一角に、昼時や夕食時になるとサラリーマンたちでいっぱいになる食堂があった。2日間、その前を何度か通りながら「何が人気なのだろう」と独り言。すると韓国人の友人が「あの店のチョングッチャンを食べたことはある?」と聞いてきた。そういえば全羅南道で食べたことがあったぐらいで、ソウルでは食べたことはなかった。「ソウルでもあるの?」と聞き返すと「どこでもあるけど、においがきついから家ではあまり作らなくて食堂で食べることがほとんど。あの店も有名で。身体にもいいしね」と。その日の気温はマイナス10度。夕飯には少し早い時間だったが寒さに打ち勝つにはご飯に限る、ということで店に入った。「うわぁ暖かい」。お客さんもまばらでいい感じ。
早々、チョングッチャンを頼んだ。友人は「日本の納豆よりもにおいが強烈でしょ。大丈夫なの?」と心配顔。前に食べた時も美味しかった。においは気にならない。厨房からにおいがしてきた。先に数種のキムチやナムルなどの小皿料理が運ばれ、メインのチョングッチャンがアツアツ状態で運ばれてきた。納豆汁風の鍋の中には、大振りに切った豆腐やジャガイモ、タマネギなどの野菜。それにキムチや牛肉も入っていた。スープを一口、二口。「う~ん。あったまるね」と言いながら、友人の食べ方を真似してご飯にチョングッチャンをかけて食べた。これが何とも旨いのだ。冷えた身体が徐々に温かくなってくる。キムチなどの小皿料理のおかずも申し分ない。
全部は食べきれないと思ったのが嘘のように完食した。聞いてみると、食材のほとんどは自家製。チョングッチャンと豆腐、そしてキムチも。さらに大豆は、ソウル郊外の京畿道にある畑で栽培をしているのだという。この食堂で味わうチョングッチャンは、素材の良さもあってか心身ともにホッとさせてくれる。以来、足繁く訪れるようになった。
今年も年末まで頑張ったら、自分のご褒美にチョングッチャンを食べに極寒のソウルへ。発酵食品をしっかりといただき、免疫力を高めやや手遅れかもしれないが肌もすべすべでありたい。
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。


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