韓国スローフード探訪18 薬食同源は風土とともに

北岳山の麓で味わう極小黒大豆の手作り豆腐
日付: 2019年08月15日 00時00分

香り引き立つ手作り豆腐
 連日の猛暑。ちょうど昨年の今ごろ、仕事でソウルを訪れた。友人から「豆腐を食べに行こう」と言われた。「江原道まで? それともあの店?」と聞いてみると「いろいろな所に行っていると思うけど絶対に行ったことがないから」と自信満々の様子。友人の説明はさらに続き「田舎豆腐という人もいるし、わざわざタクシーで食べに行く人もいる」と説明され、何だか興味がわいてきた。
「連れていって」のひと声で、市庁舎付近から車で北岳山の方向に走ること約15分。車窓からの眺めも都会の喧騒とはうってかわり、木立が多く、緑のシャワーが心地いい。そうこうしていると「ここですよ」と、目的地に着いた。看板に豆腐とチョングッチャンの絵が描かれていた。お昼前にもかかわらず、店内は混み始めていた。勤め人らしい人がほとんど。近くにある青瓦台(大統領府)の職員にも人気なのだという。早々、メニューを見ると、名物料理以外にも赤米・黒豆・小豆などが入っている釜飯も気になり、釜飯定食に単品で手作り豆腐とチョングッチャンを注文した。隣のテーブルでもチョングッチャンを食べている。鍋には大きく切られた豆腐が入っていて、見るからに食欲をそそる。
手作り豆腐が運ばれてきた。大皿に木綿豆腐2丁分ほどが大きくカットされ、よく見てみると真ん中の列の豆腐は青味がかっている。隣のテーブルの人が「最初は何もつけないで食べてみて」とアドバイスをしてくれた。そこへポッサムが運ばれ、続いてチョングッチャン、釜飯と勢ぞろいした。店の人が「そうそう、最初は何もつけないで豆腐を食べて。次に特製の味噌ダレをつけてもいいし」と教えてくれた。不思議な
コクがたまらないチョングッチャン
色の青味がかった豆腐を、何もつけずに食べてみた。豆の香りが口いっぱいに広がり鼻から抜け、かすかな甘味が残る。そこにチョングッチャンを一口。さらに釜飯を一口。「う~ん。美味しい」。確かに、豆腐はそのままの方が旨い。青味がかった豆腐も白の木綿豆腐もコシがあり、豆の風味がしっかりと伝わってくる。
青味がかった豆腐は、もしや極小黒大豆ではないかと店の人にたずねてみた。すると「江原道で栽培されている極小黒大豆で、栄養価も高く健康にいいので。普通の大豆よりは高いけど美味しいでしょ。毎日、ここで豆腐を作っているけど材料は昔から江原道のものだけを使っている。無農薬だからね」と、当たり前のように説明してくれた。
豆腐、茹でた豚肉を葉物野菜でクルリと巻いて食べるポッサム、納豆・豆腐・ネギなどの野菜が沢山入ったチョングッチャン、数種の豆が入った釜飯と、なんと栄養バランスのいいこと。さらにキムチやナムルなど8種のバンチャン(小皿料理)に猛暑も吹っ飛んだ。猛暑の夏こそ食べて健康に!
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。


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