自主国防と自主外交はすべての国の夢だ。だが、米国のような超大国でさえ自主国防や自主外交ができないのが現実だ。米国は挑戦者が現れるたびに全世界の至る所で小さな国々と同盟や協力関係を結び、それに対処してきた。ソ連が強大な挑戦国だった東西冷戦時代、米国はヨーロッパ諸国とは北大西洋条約機構(NATO)、アジア諸国とは韓米同盟、日米同盟、米比同盟、オーストラリアやニュージーランドとはANZUS、中央アジア諸国とはCENTOなど、全世界にわたる反共同盟を形成してソ連と雌雄を争った。そして勝った。
冷戦のとき、大韓民国は米国の重要な同盟国として冷戦の最前線地域で共産陣営との戦いを展開した。そのとき米国は、同盟国である韓国の経済的復興を支援し、韓国はたった2世代で、世界最貧国から世界10大富国に成長できた。米国の支援がすべてではなかったが、米国の支援は、韓国が経済発展に邁進できる安保環境を提供し、経済発展のための元金になったことは否めない。
本書で最初から強調しつづけてきたが、韓国は戦略的に非常に重要な要衝に位置する国で、近くの強大国がみな欲しがる国土だ。したがって韓国にとって、自主と独立のための同盟国の確保は死活に関わることだった。
まず韓国の周りには世界4大強国が布陣している。中国と日本は世界第2位、3位の大国で、ロシアは経済力が弱まったものの、再び超大国時代の名誉を回復しつつある。ロシアは少なくとも軍事力では中国や日本より強く、米国に次ぐ世界第2位だと自負している。
韓半島周辺の国々がすべて超大国である事実、そして韓半島が戦略的要衝地である事実は、韓半島の運命が彼らの友好・敵対関係によって規定されてきた原因だ。われわれがいくら中立を守っても、韓半島は中国と日本の戦争(1895年の日清戦争、1930年代の満州事変)、日本とロシアの戦争(1904年の日露戦争、第2次世界大戦)の主戦場になってしまった事実を想起せざるをえない。
韓国はもともと中立ができない国だ。強大国があまり重要でないと思って見向きもしない国であってこそ、中立国になれる。しかし韓国はそういう国でない。したがって、韓国は”いい”同盟国が必要だ。
「いい同盟国」とは力は強いが、韓国を蔑視せず、韓国の領土そのものに利害関係を持たない国でなければならない。すでに朝鮮王朝の末からわが国の指導者や知識人は、そのような条件に合致する国を探し、その国がまさに米国だと思った。
米国が韓国にとって良き同盟国になる第一の理由は、地理的に韓国と遠く離れているため、韓半島の国土そのものに対して領土的欲がない国であるということだ。決定論的に話しているように見えるかもしれないが、隣国同士が親友になるのは事実上不可能だ。人間関係と国際関係が違う点はここにある。人は近所付き合いで親しくなり、仲良くすごせるが、国は近くにあると、紛争や戦争勃発の可能性が高まるのが現実だ。
歴史的な事例を見よう。わが国と人種的・文化的に最も近い日本だ。日本と韓国の「血の距離」は、英国とフランス人の血の距離よりはるかに近い。言語構造から見ても日本は韓国と最も近い国だ。ところが、韓国と日本は親しい国だろうか。英国と最も多くの戦争を繰り返していたフランスは、英国の最も近くに位置し、互いに相手のことをよく理解している国だった。ドイツとフランス、英国とドイツの関係も、ともに近い隣人といえるものだ。互いをよく知る隣国同士こそ、絶えず戦争をするということが国際関係の特殊な現実だ。
本書の冒頭で紹介した本だが、米国の国際政治学者リチャード・ブッシュ(Richard Bush)が著した、中国と日本の安保関係に関する本のタイトルが『The Perils of Proximity』(近接の危険性)になっているのは、本当に適切な表現であるといえる。中国と日本はあまりにも近いため、その2国の安保関係が難しいのだ。逆説的なことだが、両国が戦う理由は、相手をあまりにもよく知っており、また、あまりにも近くにあるためだ。(つづく)