開城工団再開の宣伝道具に

朝総連主催の講演会に韓国人講師
日付: 2019年07月10日 00時00分

 北韓・金正恩政権のスタンスを代弁する朝総連機関紙の朝鮮新報社が、最新号で金鎭香・開城工業地区支援財団理事長のインタビューを掲載した。韓国の文在寅政権が開城工団再開に向け東奔西走する中、北韓は朝総連を介し韓国人を宣伝道具として活用している。これを違法とするカテゴリーは存在しないのだろうか。(ソウル=李民晧/編集部共同取材)

問われる違法性の有無

金鎭香氏は6月下旬、朝総連が主催する祖国統一情勢講演会の講師として登壇した。朝総連機関紙のインタビューも同時期に行われたものとみられる。講演会は6月21日(東京)から27日(京都)までの1週間にわたり、日本国内の5地域で開かれた。本講演会には多数の韓国人が講師として参加した。朝鮮新報によると、金氏を筆頭にチャン・チャンジュン韓神大教授(キョレハナ平和研究センター研究委員)、ハン・チュンモク6・25共同宣言実践南側委員会代表、ソン・ミヒ我らの学校と子どもたちを守る市民の会代表が、講師として登壇したことが確認された。
金氏は、開城工団再開の妥当性を主張した。金氏は開城工団設立の目的について「平和のための経済協力」と述べた上「北韓が(開城工団事業に)積極的に乗り出したのは、一も二も三も平和が目的」と主張した。さらに金氏は「北韓は外貨獲得を目的としているものではなく、平和に大きく舵を切っている。労働者に対する賃金や土地賃貸料を非常に安価に設定したことや、開城にいた6万人の精鋭軍を撤収させたということからも分かる」と強調した。
チャン・チャンジュン氏は現在、南北関係膠着の原因が韓国政府にあると主張した。チャン氏は「米国政府による対北経済制裁と圧迫政策、それに同調する南韓当局の<当事者らしからぬ態度>が問題だ。文在寅政府は非核化の仲裁者ではなく、平和統一の当事者としての役割を果たすべきだ」と主張した。
2人の主張は、北韓サイドのスタンスを忠実に代弁したものだ。もし韓国側に立つ人物ならば、状況認識は違っているはずだ。現在進行中の南北首脳会談、米北首脳会談における一番の懸案事項は「北韓の非核化」「金正恩政権の核兵器保有及び開発の放棄」だ。即ち、韓国のスタンスであれば韓国政府が韓半島問題の当事者として「北韓の非核化をより強く追及すべきだ」と認識しているはずだ。
6月30日に板門店で行われた米朝首脳の接触で文政権が批判された理由も、韓半島問題の当事者としての役割を果たせていなかったからだ。韓国領土である「自由の家」を会談の場としてトランプと金正恩に融通し、文在寅大統領は2人の会談に同席もできず別室で待機した。韓国の地で、星条旗と北韓の旗だけがはためいた。「韓半島問題は米国との直接対話で解決すること」という北韓式論旨が貫徹され、韓国は当事者としての役割を放棄したと批判されたのだ。
北韓は開城工団再開を待ちかねている様子だ。金正恩は今年の新年辞で「何らの前提条件や代価なく開城工団を再開する用意がある」と語っていた。平和だけを目的としているというが、これは信用に値するだろうか。北韓が開城工団の再開を望むのは、国際社会の長期的な対北制裁により金脈が枯渇したことが理由とされている。これについて、韓国政府の国策研究機関である韓国開発研究院(KDI)は最近「米国の対北制裁」に関する報告書で「ドルが全面的―中心的に北韓経済の通貨機能を果たしている。対北制裁で北韓にドルの流入が遮断され、北韓の全ての経済部門が否定的影響を受けている」と分析した。7月に入り、統一部は「開城工団を対北制裁の例外として認めてほしい」との主張を海外メディアに向けて懸命に訴えている。
話を戻そう。さて、朝総連の情勢講演会で講演した韓国人らは、日本での宿泊料や滞在費を自らが負担したのだろうか。講演料の授受はなかっただろうか。彼らが朝総連から対価を得ていた場合、日本の国内法・国際法に照らして違法の余地、国際社会における対北制裁のルールとのずれはないだろうか。掘り下げるべき問題だ。
消息筋によると、朝総連は金鎭香をはじめとする韓国人たちの訪日講演会を、すでに今年の4月末~5月初めに企画していたとされる。


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