韓国スローフード探訪15 薬食同源は風土とともに

百済の都・扶余で蓮の葉ごはん
日付: 2019年06月12日 00時00分

新見工房代表 新見寿美江


今年も蒸し暑い季節がやってきた。この季節がくると何故か、扶余(忠清南道)へ行きたくなる。その大きな理由は、汗を拭きながらの歴史散策と宮南池に咲く蓮の花、そして蓮の葉ごはん。これを食べるのが今では第一の目的になっている。
雨に煙る宮南池
 百済26代聖王が538年に、現在の忠清南道公州から扶余に遷都し、660年に新羅と唐の連合軍によって滅ぼされるまでの123年間、百済の都として栄えた。往時を偲ぶことができる扶余山城は起伏に富み、遺構を見学しながらハイキング気分が楽しめる。四季折々の樹木や草花、そして眼下を流れる白馬江(川)のゆったりとした景色はいつ訪れても美しい。
山城には百済滅亡の時に、多くの女官が白馬江に身を投げたと伝わる落花岩があり、絶壁の岩肌に夕陽があたる様は、多くの女官たちが流した血に染まった色と言い伝えられている。山城とともに必ず立ち寄るのが扶余定林寺址大伽藍址。南北に一直線で中門・石塔・金堂・講堂が建てられた一塔式で、扶余定林寺址五重石塔と石造如来像を見ることができ、回廊をめぐらした壮大な伽藍だったことがわかる。
大型連休も過ぎたころを見計らって扶余を訪れた。ソウルからは、いつも高速バスを利用し、この日も早めにソウルを出発し日帰りの旅。終点となる扶余高速バスターミナルからは、見どころとなる扶余山城や扶余定林寺址大伽藍址は徒歩圏内。散策を終え、少し遅めのランチタイム。お目当ての飲食店へと向かう。
今回は、蓮の葉ごはんとプルコギのセットを注文。チャプチェやテンジャンチゲ、そしてバンチャン(小皿料理)10種が付いてくる。プルコギ用のコンロと鍋がセットされ、プルコギを巻いて食べる(サム)ための葉物野菜が並び、そうこうしていると蓮の葉で包んだご飯が運ばれてきた。蓮の葉を開け始めるとほのかな甘さと、清々しさのある香りが立ちこめてくる。
葉の中は、お赤飯のような色をしたご飯にカボチャや松の実、栗、小豆、豆が入り、見ただけで食欲が増してくる。ご飯にも工夫があって、白米の他にモチ米と黒米を加えたもので香ばしさや粘り、天然の甘味が全体をやさしく包みこんでいる。このご飯とテンジャンチゲがあれば何もいらないほどだ。食べながら全身に栄養が巡ってくるような感じがする。これは、栄養価の高いご飯をさらに血行促進、抗酸化作用などがある蓮の葉に包んで蒸しているからだろう。
蓮の葉ごはん
 その昔、楊貴妃も美容とダイエットに蓮の葉茶を飲んだと伝わっている。葉に含まれているアルカロイド類はリラックス効果もあり、ストレス解消にもよいといわれている。
蓮の葉ご飯と、たくさんの葉物野菜で包んでいただくプルコギ、店で手作りされている天然味噌を使ったテンジャンチゲ。キムチ、モヤシやキノコなどのナムル、黒豆の煮物、タマネギの酢漬けなどのバンチャンの味と量に大満足。店の人から「帰りは高速道路も混むところがあるから早めのバスで帰った方がいいから」と。宮南池で咲き始めた蓮の花を観賞し、高速バスターミナルへと向かった。蓮の葉ごはんの力で足取りも軽く、暑さもさほど感じないのは身体の内側が温められ元気になったのだろうと実感した。
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。


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