韓国スローフード探訪14 薬食同源は風土とともに

全羅北道全州で本場のビビンパを味わう
日付: 2019年05月29日 00時00分

機能成分に優れた大豆モヤシ
 海の幸、山の幸が、ひとつの器に盛り付けられ、さまざまな味が楽しめる食のオーケストラともいえるビビンバ。今や世界食として知られている。ビビンとは韓国語で「混ぜる」という意味だと知ったのも、ビビンバからだった。
バは、ご飯のパプッのこと。なかなか正しい発音ができず、韓国でもビビンバと言ってしまう。
ビビンバが郷土料理とされているのが全羅北道の全州と慶尚南道の晋州で、この料理が記録として『是議全集』(朝鮮半島の料理本)に登場するのは1800年代後期。記録には、全州・晋州・海城という地名が登場する。これらの地域で、どんな時に生まれたのかは諸説あるようだが、今日に伝わる有力な説としては祭祀にお供えした料理を最後に神様(ご先祖様)と分かち合っていただくために、ご飯の器にさまざまな料理をのせて食べたのが始まりとされている。
ソウルから高速鉄道(KTX)を利用し、本場のビビンバを楽しむために全州へと向かう。全州までは約2時間30分。ソウルからも日帰りで行けるのがいい。
20年ほど前、高速バスで全州を訪れたのが最初。その当時、料理雑誌で「食は全州にあり」というタイトルを目にした。そのタイトルが気になった。行って最初にわかったのが全州には韓国最大の穀倉地帯とされる湖南平野が横たわり、西は海(西海)に面し、一年を通じて比較的おだやかな気候に恵まれているということを知った。これこそ食材の宝庫だ。
さらに朝鮮王朝を築いた李成桂の肖像画を祀る慶基殿(1410年に建てられた)を訪れ、この地が李成桂の本貫であることを知った。おそらく、王侯貴族たちへのもてなし料理が発展し、全州の伝統料理として受け継がれている地なのだろう。
全州ビビンバに欠かせないのが大豆モヤシ。大豆イソフラボン、大豆サポニン、大豆たんぱく質といった機能成分に優れ、美肌、ダイエット、二日酔い、老化防止によいとされる小さな巨人。そして、何より伝統的なご飯の炊き方にこそビビンバの栄養がギュッと詰まっているのだ。それは、炊飯の際に使う牛頭を煮詰めたスープ。そのスープから完全に脂分を取り除いたものを使って炊き上げる。見た目にはわからないが全州ビビンバの魅力は大豆モヤシとご飯にあるといっても過言ではない。
具材がぎっしり全州ビビンバ
 何度か訪れている店がある。創業50年以上になるだろうか。店内は地元の人でいっぱいだ。待ちに待ったビビンバが運ばれてくる。ピカピカの真鍮の器に、色とりどりの具材が乗せられ崩すのがもったいないほど。さて、そのいただき方はというと、お箸を1本ずつ左右に持ち、軽くご飯をつぶさないように混ぜ合わせる。決して、ご飯も具材もつぶさないように。この混ぜ方を教えていただいたのも、この店である。コチュジャンがさまざまな具材とご飯にからまり、いっそう味に深みと旨みが増してくる。豆モヤシのスープが全体を丸くおさめていくかのような何とも言えない優しい味。時間を忘れ、味を噛みしめながら「そうそう、この味、この味」と、至福の時を堪能し元気をチャージした。
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。


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