韓国スローフード探訪10 薬食同源は風土とともに

薬令市がある大邱で薬膳料理に舌鼓
日付: 2019年03月20日 00時00分

 韓国第三の都市として知られる大邱広域市の中心部に、350年ほど続く大邱薬令市がある。市と呼ばれる約800メートルの通りには、韓方材の販売店や韓医などが立ち並び、一角には「大邱市韓医薬文化館」があり、観光客にも人気のスポットだ。
東京から大邱へ直行便があるため、大邱を起点にして旅をすることも気軽になった。大邱には何度も訪れているが、興味深い薬膳料理のことを耳にし、その場所が大邱市郊外にある「鹿洞書院」からも近いということで、書院にも立ち寄りながら出かけた。
鹿洞書院には、秀吉の朝鮮出兵で加藤清正の家来としてやってきた戦国武将・沙也加(金忠善将軍)が帰化したと伝わり、今も子孫が暮らしている。
女性膳の釜飯とおかず
 訪れた日は、緑まばゆい初夏のころ。市内からは車で約30分。金忠善将軍の子孫が暮らす里への道は、以前よりも整備され見覚えのある竹林と畑が続いた先に、鹿洞書院と2012年にオープンした「達城韓日友好館」があった。この館を見るのは初めてだ。学芸員から当時の船や文書の説明を受け1時間30分ほどかけて見学。すでに11時30分を過ぎ、お腹も空いて昼食の薬膳料理への期待感が高まっていた。ご一緒して下さった大邱市の方によると、ランチの薬膳料理は、特産の蓮根を使ったものと、男性と女性の体質に合う韓方材を使った釜飯だという。「韓方材を入れた薬飯では?」と思いながら目的の店に。
先に出されたのが大邱蓮根飯床(4品)。中でも蓮根入りハンバーグはシャキシャキ感があり、食べやすく、コミョン(料理を飾るもの)はカボチャの種と体にいいものばかり。店の人によると、この料理を出す店は大邱市内に数件あって、特産の蓮根をもっと知って欲しいとして考案されたものだという。「これからご飯が出ますので」という声とともに、ほのかに甘い香りが流れてきた。釜飯の女性膳の登場だ。「韓方材を入れて炊いたのですか?」と店の方に聞いてみると、ニコニコした女将さんがやってきて「身体には気を通す穴があって、そこを活発にする韓方を煎じた汁を使って炊いたご飯が女性膳です。韓方医に調剤してもらったものを使っているので、貧血予防にも効果がありますよ。男性膳は、気を高めるための韓方材を使っています。おかずは季節の野菜を中心にしたもので、大邱で採れたものがほとんど。調味料はゴマや味噌、柿などを使っています。先に釜飯のご飯を別の器によそって、釜にはお湯を入れ蓋をして食後にスンニュン(食後の消化を助ける役割)で飲んでください。それと、ふっくらした状態でご飯を召し上がっていただくために、炊く時は鉄製の蓋を使い、炊き終わったら木製の蓋にして、お出ししています。さあ、召し上がって」と。
韓方材にはナツメも入っているのだろうか、ほんのりとした甘さがあり、韓方を煎じたような独特の匂いはない。ご飯の色は薄茶で、見ただけで食欲が増してくる。汁物を先にいただき、さっそくご飯を一口。ふくいくとした香りが口から鼻へと抜けていく。噛むほどに甘さが増し、ご飯だけでも十分満足するほどだ。季節の野菜もまた、炭火で焼いただけのものなど全部いただいても体に負担がかからない工夫がある。完食には至らなかったが、最後にゆったりとした気分でスンニュンを飲みフィニュッシュ。韓方の街ならではの膳に、体の内側から穏やかなパワーがわき出してきた。
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。


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