韓国スローフード探訪9 薬食同源は風土とともに

高麗人参栽培発祥の地「錦山」へ
日付: 2019年03月06日 00時00分

高麗人参の花
 風邪のひき始めや「疲れたな」と思った時、疲労回復や代謝を高めるなど多くの薬効成分を含んでいる高麗人参のお茶や、エキスを飲むようになって久しい。継続して飲むと、疲労も徐々に回復してくるように感じる。最近では手軽に利用できるスティック状のエキスを外出時にも携帯し、インフルエンザの予防と勝手に決め込んで活用している。
高麗人参の栽培畑は、韓国の地方都市を旅行する際にバスや列車の窓から目にすることも多い。特徴的なのは、黒のビニールシートを使った片屋根風に覆った光景である。韓国に初めて取材で訪れた時、ソウル市内にある参鶏湯の店で「うちは錦山の6年物の人参を使っている」と聞いた。どうやら、錦山の6年物というのが高麗人参の中でも質の高さを意味しているようだ。参鶏湯の参は高麗人参の参ということも理解した。理に叶った料理で、三伏の日(夏至から数えて3度目と4度目の庚の日、そして立秋後の最初の庚の日)に暑気払いに食べる習慣があることも知った。こうなったら、錦山へ行くしかない。そう思い立ってから3カ月後、ソウル・江南の高速バスターミナルから、錦山行きに乗車した。町は高麗人参一色と言っても過言ではなかった。錦山高麗人薬草市場をはじめ、高麗人参入り商品販売所の建物や錦山人参館が想像より近代的で、のどかな山間の町だろうと勝手に思い込んでいたのだ。嬉しかったのは参鶏湯の店が多く、通りを歩いているだけで優しい香りが漂ってきたこと。高麗人参の天ぷらを食べた時の美味しさは経験してみなければわからない。何度か訪れているうちに土地勘も増し、さまざまな地方都市を回りながら錦山で参鶏湯を食べてソウルへ戻るというのがマイコースとなっている。
広大な錦山人参畑は眺めも壮観
 錦山は、忠清南道錦山郡を代表する山間の町。ソウルから高速バスで約2時間30分のところにあり、古くから高麗人参栽培発祥の地として知られている。今から約1500年前、親孝行の若者が母親の病気治癒を祈願して、毎日観音窟で祈ったところ山の神が夢に現れ、赤い実の薬草(高麗人参)のある場所を教え、その薬草の根を煎じて飲ませるようにと告げたという。若者は教えられた場所で薬草を見つけ、根を煎じて飲ませたところ、母親は元気を取り戻した。若者は、この感謝を周囲の人たちにも伝えようと種を蒔き薬草を育てたと伝わっている。1983年、錦山郡南二面星谷里開眼村に若者が栽培したとされる場所を記念して『開参閣』が建てられた。
高麗人参の栽培は、水はけの良い土壌、昼と夜の寒暖差が大きく、年間を通じて冷涼な気象条件とされている。錦山には、これらの条件が備わっていたため昔から高品質の高麗人参が生産されてきた。種を蒔いて3年目で花が咲き、4年目から収穫ができ、6年目になると高麗人参のサポニン量が最高になることから、6年物が良いとされる。一度収穫をした畑は、養分を蓄えるまで10年間は使えない。
錦山を訪れる度に立ち寄るのが「錦山高麗人参館」。ここには高麗人参の種類や有効成分の説明、食べ物から化粧品などの体験コーナーもある。ここで、新しい情報を得てから町歩きをすると楽しみが倍増する。ひと休みには、高麗人参の天ぷら。参鶏湯は、店によってさまざまな味が楽しめる。中でも、松の実やヒマワリの種、しっかりとした棗が入っているものが好みだ。食べた翌日は、気のせいか肌もツルツルに。
新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。


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