世界5大陸を舞台に13戦が行われる世界ラリー選手権(WRC)は、11月のオーストラリアで今シーズンの幕を閉じた。公道を走るWRCは、サーキットを舞台とするF1と並ぶモータースポーツの最高峰だ。
初の世界チャンピオンを狙ったヒュンダイチームは、13戦のうち第9戦までメイクス部門(ヒュンダイ・トヨタ・フォード・シトロエンが参戦)をリードしていたが終盤に失速、トヨタに逆転を許し残念ながら3年連続の2位にとどまった。
ドライバーズ部門では、優勝確実と思われたヒュンダイのテリー・ヌービル(ベルギー/30歳)がまさかの失速。同タイトル5連覇中のフォード所属のS・オジェ(フランス/35歳)との争いは最終戦に持ち越された。しかし、逆転を狙いあせるヌービルがコースアウトして立木にぶつかりリタイア、万事休す! 2位でシーズンを終えた。
ヒュンダイの中盤までの活躍は目覚ましく、第7戦までで3勝。メイクス部門でフォード、トヨタに大差をつけ、ドライバーズ部門ではオジェに27点、トヨタのO・タナック(エストニア/31歳)に72点もの差をつけ、両タイトル獲得を誰もが予想していた。流れはトヨタのチーム本拠地フィンランド(第8戦)とヒュンダイの本拠地ドイツ(第9戦)で変わった。フィンランドで、トヨタは徹底的なマシン改良を行い1位と3位を獲得(2台の順位点の合計がポイントになる)。対するヒュンダイは4位と8位で、トヨタとの差は27点に縮まった。
続くドイツでもトヨタの快進撃は続き1位と3位を獲得、ヒュンダイは2位と6位でわずか14点差に迫られた。第10戦のトルコでもトヨタが勝ち、ついに5点差で逆転を許す。その後は、フォード、シトロエンの巻き返しもあって思うように順位を伸ばせず、初優勝の野望は果たされることなく今シーズンが終わった。
ヒュンダイの低迷はイコール(当然ながら)ヌービルの不振である。№2と№3のドライバーが活躍したトヨタに比べ、ヒュンダイにはヌービルをバックアップできるドライバーがいなかった。
1973年から始まったWRC。長い歴史の中でチャンピオンチームとなったのはルノー、ランチア、フィアット、フォード、タルボ、アウディ、プジョー、トヨタ、シトロエン、三菱、スバル、VWだけである。一方、日産、マツダ、BMW、サーブ、ボルボ、オペル、ベンツ、ポルシェ、MGなどの名だたるメーカーは、長年のチャレンジにもかかわらずチャンピオンにはなれていない。
ヒュンダイの挑戦は前述した他のメーカーに比べてかなり短く、第1期の00年~03年、第2期の14年~18年のわずか9年にすぎない。トヨタはWRC復帰2年目でチャンピオンを獲得したが、実に99年以来の王座復活なのだ。トヨタのWRC挑戦の始まりは75年であり、それに比べればヒュンダイはまだまだひよっ子。これからに期待したい。
トヨタと明らかな差がついたi20クーペ(インドの工場で生産)の性能アップ、そして才能豊かなヌービルをバックアップする優秀なドライバーの加入・育成が来年のチャンピオン獲得に向けた絶対条件だ。社長の最大の趣味がラリーということで資金を惜しみなく使うトヨタに負けず、来年こそは悲願を達成してほしい。
なお、日本は2020年開催を目指してFIAに働きかけていく方針とのこと。日本を走るヒュンダイチームをぜひ見たいものだ。
(元講談社BC社長・『ベストカー』元編集長 勝股 優)