韓国スローフード探訪3 薬食同源は風土とともに

桐華寺の精進料理で身も心もすっきり
日付: 2018年11月07日 12時33分

 ハロウィンが終わり、今年も残すところ2カ月余り。知人の誘いを受け、テンプルステイをするために釜山・金海空港へと向かう。目的のお寺は、空港から約2時間30分の大邱市北東部に位置する桐華寺。この寺は、全長約20キロ、標高約1192メートルの八公山の中腹にあり、仏教文化が華開いた新羅時代に創建された古刹である。山中には符印寺や把渓寺などがあり、この山を有名にしているのがカッパウィ(冠峰石造如来坐像)。この坐像は、受験シーズンには多くの人が合格祈願にやってくることで知られ、昔から「願いのひとつは必ず叶えてくれる」と伝わっている。
1枚の皿に食べられる量だけよそう
 真っ青に晴れ渡った釜山の秋の空。KTXで大邱へ。大邱からはバスで桐華寺へ。移動しながら目的地を目指すのが何とも楽しい。移り行く風景と、乗り物を乗り継ぐ度に「旅はこれだからおもしろい」と思ってしまう。
秋の夕暮れは早い。とっぷりと陽が落ちて辺りはすっかり暗くなってきた。お腹も空いてきたころ、寺に到着した。テンプルステイのユニフォームに着替え、食堂へと向かう。広い境内を流れる渓谷のせせらぎに耳を傾け、冷たく澄んだ空気に清々しさを覚えながら、暗くなった境内を上り下りしながら進んだ先に、おいしそうなご飯の香りがした。
ルールに従って、ワンプレートに自分が食べる量だけをよそう。最初は、黒米と黍のご飯、次に白菜や大根のキムチとチョンガキムチ、豆腐と大根の煮物、モヤシとほうれん草のナムル、梅のチャンアチ(みそ漬け)と海苔を入れ、最後にカボチャのスープの入った器を持ち、席に着いた。感謝の合掌をしてスープからいただく。カボチャのまろやかな香りと甘み。ピリッとした辛さも感じるが、辛さはアッという間になくなってしまう。カボチャの甘味とほっくり感が疲れた身体を和ます。
そして、見るからに栄養満点のご飯をひと口。黒米と黍、それにインゲンのような豆が入っている。香ばしく、ゴマ塩があればおかずはいらないほど。噛むほどに甘味も増して、箸休めにキムチを食べるといっそうご飯がすすんだ。しまった! ナムルと煮物が残ってしまっている。残したらルール違反になってしまう。ご飯はもうないが、ナムルから食べてみると思ったほどの辛さはない。
同じように唐辛子の色で真っ赤になっている大根と豆腐の煮物も、見た目とは大違い。ピリ辛だが、ダシのしみたおでんのような感じがした。見た目は、どれも唐辛子の色で赤いのだが、どの料理も素材の持ち味を活かし食べやすい。バランスの良い夕食ですっかり元気になった。たくさん食べたはずなのにスッキリしている。
夕食のあとは五体投地に似た韓国式のお参りの仕方を体験。僧侶の「バシッ」という竹箆の音に合わせ、一心不乱に直立で合掌し、上体をひれ伏したまま掌を上に向ける動作を繰り返す。額からは汗がタラタラと流れ、終わっても手の震えがとまらないほどだ。満点の星空を見上げながら少しずつ爽快感で満たされていく。来て良かった!と満足していると「明日は4時起床。6時までは座禅」のアナウンスが流れた。
早朝、座禅の時間は30分。始める前に僧侶が呼吸方法を指導した。30分はきっと長いだろうと予想していたが、何も考えないことに集中したからだろうか、さほど長いとも感じない。座禅を終えて足をゆっくりともみほぐし、上体を左右にゆすりながら全身をリラックスさせて終了。
待ちに待った朝食。カボチャや白菜、大根など多くの野菜が入ったビタミンカラーの粥は、心も身体も優しくリセットしてくれた。夕食と朝食を体験したに過ぎないが、気も身体も整えられていく時間に合掌。

新見寿美江 編集者。著書に『韓国陶磁器めぐり』『韓国食めぐり』(JTB刊)などがある。


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