北の「我が民族同士」に込められた欺瞞

李春根・国家戦略フォーラム研究委員 
日付: 2018年10月03日 00時00分

金日成民族=韓民族の溝

 2018年、韓半島から戦争の危機は去ったと信じる韓国人が急増した。9月の平壌南北首脳会談直後に行われた世論調査で、大統領の支持率が10%以上急騰したことが、それを示している。韓国で、南北は同じ血を分かつ兄弟という意味で用いられる「我が民族同士」というフレーズを、北韓も同意義として捉えているのだろうか。これに対し、李春根・国家戦略フォーラム研究委員が綿密に分析した。

 今日の韓国問題を示す分断・戦争・葛藤は、そのほとんどが国際政治的原因に由来する。韓国現代史における最も壮絶な災難、6・25戦争も国際的問題だった。金日成による南侵時、北韓軍は最新型のソ連製兵器で武装していた。韓国戦争に参戦した国家は20カ国に及ぶ。当時の強大国が世界中から参戦した。ソ連の参戦が確認され、さらには日本の自衛隊員たちも掃海作戦に参加した世界戦争だった。
6・25戦争休戦後、65年が過ぎた2018年現在まで、韓半島問題が好転することはなかった。表面的な平和ムードは形成されたが、南北間のうち片方の崩壊を前提とする終わりなき闘いが繰り広げられている。
韓半島問題が膠着状態だった間、韓国の一部では北韓の体制を肯定し、社会主義または共産主義を積極的に受容する勢力が現れた。彼らは、韓半島問題の根源がソ連・中国・北韓などの社会主義陣営にあるのではなく、米帝国主義と自由主義的資本主義にあると主張している。彼らは「米軍撤収」というスローガンが、6・25戦争で共産主義の虐政を経験した韓国の国民感情に反する過激なものであることを承知している。よって、全韓国国民が納得し得る、少なくとも露骨に反対することのできないスローガンを打ち出した。それこそが「我が民族同士」だ。
”韓民族の苦悩は分断に由来しており、分断を招いて固定化させたのは外勢だ。つまり、外勢を除去することで我が民族の統一を成し遂げることができる”と、いとも簡単に片づけようとする。この論理は、民族主義的性向の強い多数の韓国国民たちに刷り込まれた。しかし、この論理はトラップだらけだ。
まず、「我が民族同士」を謳う者たちが言うところの外勢とは、米国と日本を指す。中国やロシアなどの社会主義国は含まれていない。
彼らによると、北韓は外勢に侵されていない「主体の国」である半面、韓国は米軍による駐屯、占領、搾取をされた「植民地国家」だ。彼らは、北韓と南韓が兄弟姉妹であるという点を強調している。しかし「我が民族同士」の主張は非論理的で、とうてい妥当な主張とは言えない。
民族の概念を創案した西洋人たちが最も強調する要素は、民族が「同じ考え」を分かちあえているかどうかという部分だ。「同じ血統」は最も重要度が低い要素だ。すなわち、肌の色が違っても歴史と言語、慣習、宗教、思想などが同じ場合、彼らは一つの民族ということになる。今日の米国がまさにその例だ。
半面「我が民族同士」を主張する韓国人たちは、考えが違っても血が同じなら同じ民族になることができ、仲良くすべきだという当為性が生まれると錯覚している。北韓は自らを「金日成民族」と呼び始めた。「我が民族同士」論者は頭を抱えるしかないだろう。
南韓の人々が我が民族を称する「韓民族」と、「金日成民族」は同じ民族なのだろうか。北韓は、南の韓国人全員を同じ民族として認めていない。思想が異なるからだ。血が同じでも考えが異なる彼らは、金日成集団からすると「反動分子」となる。共存不可能な部類の人間なのだ。
「我が民族同士」を強調する韓国人たちに問いたいことがある。米国との同盟を強調し、資本主義を信奉する韓国人たちも甘受するのだろうか。同じ血であるという事実が民族の本質であり、共産主義と主体思想を信奉する北韓人たちも皆受け入れるべきだと主張するならば、いわゆる「極右」や「資本主義者」も含まれることになるのだ。
筆者が韓半島周辺の国家情勢を講義すると「我々が仲良くひざを交えれば解決する問題ではないか」との質問を投げる人がいる。韓国における喫緊の課題の中で、一つでも南北が仲良くひざを交えて解決する問題があるだろうか。
まず、北韓が60年以上にわたって飽きもせず主張してきた「駐韓米軍撤収」だ。金日成―金正日―金正恩と続く北韓体制は、一貫して駐韓米軍に対して同じ見解を示している。駐韓米軍が撤退してこそ南を占領し、彼らが望む方法での統一ができると信じているからだ。では韓国はどうか。韓国の人々の多くは、駐韓米軍の存在あってこそ戦争が抑制できると信じている。だから、駐韓米軍の存在は北韓の脅威がなくなる時まで韓半島の安全のため必須であると考えている。朴槿惠前大統領を弾劾したろうそくデモを、一般の人々が傍観していたかは不明だ。しかし「米軍出ていけ」というろうそくデモは、少なくとも衝突を避ける手段ではない。
北の「我が民族同士」を謳う人々にとっては耳を塞ぎたくなる話だと思うが、韓半島周辺の外勢の中で、統一に反対する理由がない国は唯一、米国だけだ。なぜか。恐ろしくも国際政治学では、隣に強国が生まれるのを防がなければならないと教える。韓半島統一に対し、中国と日本は権力政治的(Power Politics)な理由により賛成することが不可能だ。中国は韓半島が統一に最も近づいた1950年の秋、130万の大軍を派遣し、これを防いだ。韓半島の統一を防ぐため、中国は約20万人の戦死者と60万人の負傷者を出した。中国軍の死亡者の中には、毛沢東の息子の名前もあった。

 


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