李栄薰・李承晩学堂校長の建国70周年インタビュー

「反日種族主義を克服せよ」
日付: 2018年08月15日 00時00分

自由民主主義と市場経済が国家の土台
日本との協力で互恵・開放的社会創出―中国を民主化するのが韓国の役割

 大韓民国が建国されてから70年が経ったが、韓半島に初めて出現した近代国民国家の建国史について日本語で書かれた本は、意外に少ない。李栄薰前ソウル大学教授が執筆し、和訳された『大韓民国の物語』は、一般人にもわかりやすい代表的な本だ。経済史学者として国内外に知られる李教授は、定年退職後「李承晩学堂」と「李承晩TV」を設立し、現代史を国民に広く教える活動をしている。ソウル中心部に近い南山の李承晩学堂を訪ね、建国70年を迎える大韓民国の成功と繁栄、そしてここ20年間の韓国社会の停滞の原因を分析し、今後の課題について聞いた。大韓民国の正常化と韓日関係の発展に対する李校長の提言を紹介する。
(インタビュアー=洪熒・本紙編集主幹)

李栄薰氏
【建国はそれ自体が革命】

――韓半島に自由民主共和国として誕生した大韓民国の建国は、それ自体が革命でした。建国後行われた農地改革も建国革命の延長線上のことです。建国70年を振り返って、大韓民国の繁栄をもたらした最も重要な革命的要因を挙げるとするなら何でしょう。

 農地改革は、思ったほどの革命的な結果をもたらしたとは言えません。新生大韓民国政府は1949年3月から農地改革を推進しますが、その前にすでに相当な農地が農民に分配されてきたため革命的かつ断絶的な変化をもたらしたわけではありません。つまり解放後、46年から48年の建国までの間、地主たちが自発的に農民に農地を売り出し、その変化は漸進的でした。もちろん、農地改革が重要でなかったという話ではなく、農地改革が農村社会を一挙に革命的に、断絶的に変化させたわけではなかったということです。
農地改革が地主階級の没落をもたらした結果についてはどう考えますか。
そういう側面は明らかにあり、それで国民的統合、韓国人たちを大韓民国の国民として統合させた政治的効果は非常に大きかったと言えます。それを否定するわけではなく、変化は非常に革命的かつ断絶的なものでなく、実情は連続的だったということです。

【輸出を通じ国家経済を建設】
――それでは韓国国民が、一般的に気づいていない革命は何だったのでしょうか。

 今日の韓国を築き上げた最も重要な出来事は、韓日国交正常化とそれに続く輸出主導の工業化政策だったと思います。それ以前は、輸出を通じて国家経済を建設するというそんな発想はありませんでしたからね。輸出が重要だとは認識していたし、ドルが不足しているから、輸出を通じてドルを稼ごうという考えは、自由党政府の時からありました。輸出計画も作りました。65年、「輸出立国」をスローガンに掲げ、輸出そのものを動力として国家経済を建設する方針が打ち出されたのです。それまで、後進国が輸出を通じて経済を建設するという考えは、他の国にも前例がありませんでした。
とても創意に富んだ発想で、多くの反対がありました。野党の「大衆経済論」がその典型的なものでした。米国やその他先進国の経済学者たちもそういうアイデアを出したことがありません。ところが、国の朴正煕大統領政権は輸出主導で国家経済を建設することに挑戦しました。70年代には、重化学工業の育成もその戦略の延長線上で進められました。
輸出を通じて国家経済を建設することが可能になった理由は、日本との国交正常化を通して高級素材や中間財、それに技術が入ってきたためです。日本からそれらを導入したので、国際市場で売れるものを生産できたのです。つまり、日本との協力関係を通してのみ輸出主導の工業化が可能だったということです。韓日国交正常化を通じて輸出主導の工業化が可能になり、市場環境と国際環境が創出されました。それが80代まで続きます。
韓国を取り巻く国際環境を積極的に友好的なものに変え、それを活用しながら輸出主導型へと国家経済を高度化させていった、それが韓国人の創造的な国家革新体制です。これは今日の韓国を築いた最も重要な原理です。
しかし金泳三政権以降、この基本的な国家革新体制の原理を放棄し、内向きで行政主義的な方針を取り続けた結果、経済危機に遭い、今日まで停滞し続けているのです。
今、韓国経済の最大の問題は、高度成長期の行動原理を失ったことです。高度成長を可能にした、日本との協力を通じて積極的な輸出で国家経済を高度化させたその行動原理を、韓国人自らが捨て内向きかつ分配主義的な政策をとったため、今日のような低成長の趨勢を迎えてしまいました。韓国経済を築いた重要な政策を挙げるとすれば、第一は自由民主主義と市場経済を国家経済の土台とする政治的変革を行った大韓民国の成立で、二番目は65年から本格的に稼働した日本との協力を通じての輸出主導の工業化政策といえるでしょう。

【より広く統合された国際社会と文化の成熟を】
――われわれの政治的環境が正常化されれば、今からでも輸出主導型工業化での成長は可能だと思いますか。

 65年までは輸出主導の工業化政策でしたが、その基本精神は隣国と協力する関係の中で、国家経済を経営することではないでしょうか。この段階では単純に輸出だけでなく市場も開放し、社会と文化も開放して、もっと広く統合された国際社会と国際文化を成熟させていかねばなりません。これが輸出主導工業化の今日の課題です。
輸出のみをし続けるのは困難です。他国の市場だけ利用するという話になりますから、それは永遠には続けられませんね。自国の市場を開放して、日本の工場や日本の先進的な技術が国内に入ってくるようにし、労働市場や商品市場そのものを日本と統合する必要があります。そして可能なら中国ともそうすべきです。盧泰愚政権のときに、日本との間で韓日海底トンネルを作る話が出たことがあります。そうしたもっと広い市場を創出しながら、韓国人がそこで各自の責任で生きられる、そんな環境を生み出すことが、韓国経済が先進化し、社会や文化が先進化する道だと、私は考えます。
そういう精神が大切です。単に輸出ばかりするというのではなく、ある段階になれば非常に開放的で互恵的に統合された市場を生み出すこと、それが輸出主導の工業化政策の現在の課題だと思います。
しかし、韓国政府は20年前にこの精神を破棄しました。そのためその時から、正確には97年のIMF管理下の経済危機以後、日本との葛藤を増幅させ続け、市場を閉じ、各種の協力プログラムを中断させました。その結果、韓国は減速成長・低成長の趨勢に入り、そのため国内経済に生じた葛藤が深刻化してしまいました。国内経済が若者たちに良い働き口や所得機会を提供できず、また急激に増加する高齢者人口に十分な福祉を提供できずにいます。そのため分配主義的な政治的欲求はますます大きくなり、左派政権が登場し、より分配主義的政策・反日的な政策をとる、という一連の矛盾がますます深刻化しています。まことに残念な現実です。

【諸問題の根源に反日種族主義】
輸出主導の工業化時期に出来上がった日本と韓国経済の関係は、主要部品や素材、中間財を日本から輸入している点では今も変わりありません。韓国第1の輸出品は半導体ですが、半導体を100輸出するためには、15程度の日本の高級部品を輸入しなければなりません。鉄鋼も石油化学も同じです。高級部品と素材に関する限り、日本からの輸出はますます需要が高まっています。
このような状況なのに、日本との協力関係を意図的に中断し、葛藤を増幅させる政策をとる、こういう精神状態が最大の問題です。建国70年を迎えて、そういう点を、われわれは一日も早く克服すべきで、それが当面の最も重要な課題だと思います。
李承晩TVは近いうちに、「反日種族主義を突破しよう」という講座を始めます。韓国の民族主義はまともな民族主義ではありません。反日種族主義です。

―― 本当に重要なことを指摘されました。反日感情という曖昧で非科学的な考えを鋭く指摘されました。「反日種族主義」の「打破」と理解していいですね。

そうです。韓国の民族主義は、健全な意味で国民を一つに統合し共和主義と民主主義を成熟させるような民族主義ではなく、本質的に反日種族主義と言えます。大きな国、米国や中国に対しては非常に従属的で、依然として事大主義的です。
これが韓国の政治、社会、文化、経済のくびを締めている核心的な部分だと思います。これを突破、打破しなければ、韓国は再び歴史の舞台から周辺部へ落ちると思います。
今の従北主義とか、あらゆる問題の原因が反日種族主義にあり、この反日種族主義をいまだ打破できずにいるのが、建国70年を暗くする最も重要な要因だと私は考えています。
今の指摘は、統一日報の建国70周年特集の問題意識と一致します。
韓国人が建国70周年を忘れ、政府は準備もしていない、この状況を招いた原因を掘り下げれば、それは反日種族主義です。韓国人が歴史の中で受け継いだ閉鎖的な反日種族主義です。
日本人や韓国人は、中国は大きな鶏だが韓半島はくちばしだと言います。私はその通りだと思います。くちばしが駄目になれば食べ物も食べられず死ぬ、したがってわれわれ大韓民国が自由民主主義的に先進化すれば、中国が苦しみ死ぬ、そう思います。中国を自由民主主義にするには、われわれ韓国の役割が重要だと考えます。

李栄薰:1951年生まれ。経済史学者。ソウル大学経済学科卒、同大学の大学院で博士号、成均館大学の教授を経てソウル大学教授。2018年から李承晩学堂校長、李承晩TV代表。『大韓民国の物語』など著書多数。


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