【論考】訪日韓国人700万人超の理由と背景

日付: 2018年07月19日 06時59分

 昨年、日本を訪れた韓国からの旅行者は714万人前後、これは1年前の16年に比べると200万人以上の増加となる。またこの数は、日本からの訪韓者の3倍以上である。関係者によると、この勢いでいくと今年は800万人を優に超えそうだという。年齢層からすると、20代の若者と壮年層が比較的多い。この急激な数の伸びに、主要な運び手の一つである大韓航空でさえ確とした理由がわからず驚いているという。
韓国はこの10数年で経済格差が広がり、その影響はもろに若年層にのしかかっている。若年層の就職率は悪く、一部の有名大学出身者は別にして、大卒の一般企業への就職率は50%に満たない。ゆえに、誰もかれも俗に「チョルパプトン」と言われる公務員志向となる。公務員を目指す若者の中には、大学生なのに高卒級に落として受験しようとする者さえいる。彼らは一様に考試院(コシウォン)と呼ばれる、半ば刑務所の独房のような狭い住居で一心不乱に受験勉強に励む。このコシウォンというのは考試、つまり公務員試験受験者用に格安に設えられた3畳ほどの貸し間である。無駄というか余裕というモノがすべて省かれたベッドと小さい机一つの簡素な部屋だ。
文在寅政府は若者の公務員志向を受けて81万人の増員を掲げている。これにいち早く応えたのは、仁川国際空港公団などの一部観光関係だけで、目標の達成を疑う向きが一般的だ。韓国の若年・壮年層の懐具合はけっしてよくないのに、実際に彼らが大挙して日本を訪れている現実をどう理解すればいいのだろうか。関係当局ならずとも、不思議に思うのは当然だろう。韓国側の状況だけに目を奪われていては、この「なぞ」は解けない。韓日にまたがる事象は、双方から考えるべきだろう。
なぞを解くためには、まず日本の政治・社会に目を移すべきだろう。それも、この30年来の「失われた日本」ではないだろうか。日銀が物価の2%上昇を掲げてもう5年以上にもなるのに、いまだ達成していない。この日本のデフレは、すさまじい物価高の韓国からの訪日者にとってはとてもハッピーなのだ。
このことを具体的に説くと、ウォンと円のレートにかかってくる。ウォンと円のレートにはドルが介在しているが、それはそれとして実際のウォンと円のレートをみると、6~7年前と現状ではウォンの価値が上昇しているのだ。逆にいうと、円の価値が著しく低下したといえる。かつて、韓国で日本円1万円を得るには12万~15万ウォンを必要としたのに、現在では10万ウォンですむ。これは大きく見て韓国銀行の金融引き締めと金利操作によるものだろう。日銀の金融緩和と逆のやり方の結果である。加えて、韓国の若者たちは一昔前の旅行者のようではなく何事も質素で、食事一つにしても昼はパンでもいいし、夜は牛丼の大盛でもかまわないのだ。泊まるところにしても、安い民泊で十分だし、それもかなわないときは日本にいる友人の部屋で雑魚寝することも厭わない。本格的な温泉に行けないときは、スーパー銭湯で満足しているという。
次に挙げるべきは、格安航空券とセットされたツアー・メニューだろう。2泊3日で20万ウォン(2万円)を切る商品さえある。もちろんホテル泊2食付きであることは言うまでもない。2~3カ月切り詰めれば、日本観光は可能というわけだ。日本の温泉にゆっくりとつかり、観光もできるというのだから国内旅行の費用よりも安くつくかもしれないのだ。満足度からいうと、それはもう言うまでもないだろう。リピーターも当然多いということになる。
また、韓国人観光客1人が日本で落とすお金はベトナム人1人の5分の1、中国人の3分の1以下であるというから、韓国人の旅行テクニックが如何ほどであるかが分かるであろう。これには隣国であることと、日本に縁戚・友人がおり、コリアン・タウンが存在している事実を忘れてはならない。
さらにつけ加えるとすれば、大阪以西の九州や四国、そして北海道など従来は韓国人がさほど足を運ばなかったところや、ツアーコースにはない好みの場所を思い思いに選んでいることだ。宿泊にしても、ネットで知り合った日本人を頼っての宿泊は言うに及ばず、案内や食事などを安く上げている例も少なくない。訪日客が1000万人の大台に届く日もそう遠くないことだろう。
ただ、訪日韓国人旅行者のなかには、借金をして旅行にくる人もいる。いま、韓国で個人債務が社会問題になっているが、旅行ブームの背後にあるこういった側面も注視しなければならない。(崔昌学)


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