北韓の交渉のカードとなった「米軍兵士の遺骨」

戦争直後に発掘・保管か
日付: 2018年07月04日 00時00分

北の思惑透ける「関係改善」前面に

 6・25戦争時に北韓で戦死した米軍兵士の遺骨は、北韓政権にとって金の卵を生むニワトリだ。米軍を軟化させる交渉のカードであり、発掘費用を請求できる荒稼ぎの手段にもなる。6・12米朝首脳会談で合意した遺骨送還問題を紐解く。(ソウル=李民晧)

遺骨は200人に達する
 米国と北韓は、シンガポール共同声明で「米国と北韓は、身元が確認された戦争捕虜と6・25戦争時の失踪者の遺骨を即時送還することを含め、遺骨の収集を約束する」ことで合意した。これに基づき、駐韓米軍司令部は6月24日、板門店を通して約100個の遺骨箱を北に伝達し、京畿道・平澤の烏山米空軍基地には米国に遺骨を移送するための金属製の箱158基を用意した。
米朝が送還に合意した遺骨は、およそ200人分に達するものとされている。これは、1996年から2005年までの10年間で収集した229人分に匹敵し、1回に送還される量としては最も多い。国防部の遺骨発掘鑑識団の資料によると、北韓地域の米軍戦死者遺骨の発掘は1990年に始まり、2007年までに443人分が米国に送還された。
さて、戦後65年が過ぎようとしている現在、なぜこのように大量の発掘が可能なのか。なぜ、これど多くの遺骨を送還するのかという疑問が浮かぶ。これについては、米国防部傘下の「戦争捕虜及び失踪者確認局(DPAA)」の資料で類推することができる。DAPPが2011年、遺骨の身元確認のために発足させた「K208」チームは、12年に遺骨28人分の身元を明らかにした。13年に26人分、14年に23人分、15年に29人分、16年に69人分、17年に56人分を識別。DPAAは、遺伝子鑑識技術を活用して身元を確認した。DPAAは、6・25に参戦した米軍家族の89%からDNAのサンプルを採取し、保有している。
当時、北韓が送ってきた208個の箱を研究チームが分析した結果、一つの箱に平均4人の遺骨が入っていることが確認された。粉々になった遺骨をすべて分析した結果、約400人の遺骨に分類された。これによって研究チームは、遺骨は最近発掘したものではなく、6・25戦争直後に発掘し、保管してきたものであると把握。北韓は最近発掘した遺骨であると偽ったものの、科学的な分析では遺骨の保存状態が非常に良好だったという。つまり、北韓はこれまで、相当量の米軍兵士の遺骨をどこかに保管してきたものと推定されるのだ。200人分にも及ぶ遺骨を送るという北韓の約束は、金正恩からすれば自らがトランプに「ビッグプレゼント」を与えたと捉える可能性がある。底の浅い陥穽だ。非核化プロセスやCVID問題を先延ばしにする対価として、米国大統領に北韓式のにんじんを提供したという意味だ。北韓の協力を得て米国の遺骨発掘団が遺骨発掘作業を行うということ自体が、米国との関係改善を今後も継続させるという意思を示したものと考えられる。  
米国は、自国民の保護、特に戦争中に戦死した失踪者の遺骨捜しには費用を惜しまない。6・25戦争、ベトナム戦争、イラク戦争参戦者の遺骨を米国に送還することに注力している。
さらに、第2次世界大戦の参戦者の遺骨までもを捜している。金正恩は米国のこうした意識を利用し、大量の遺骨送還をトランプに提案した。そのため、トランプは会談当日、金正恩を「実に寛大だ」と称賛した。
一方、米軍兵士の遺骨は北韓にとって荒稼ぎの手段でもある。これまでに米国が北韓に提供した遺骨発掘費用は1人分あたり平均5万ドルだった。支払い方法は現金だ。今回200人分を一度に送還した場合、前例通りであれば1000万ドルを提供することになる。しかし、米国がこの費用を北韓に差し出すならば、UN(国連)と米国自らが設定した対北制裁に違反することになる。米国が北韓にどのような補償をするのかも、米朝交渉過程のポイントに挙げることができる。
米国国防部の資料によると、未だ発掘していない6・25戦争時の米軍戦死・失踪者の遺骨は全部で7702人分で、このうち5300人分が北韓に埋められていると推定されている。


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