高麗青磁への情熱―141―

日付: 2018年06月06日 00時00分

新案特許(一二)

柳根瀅
高徹・訳/馬瑞枝・画


「旦那様に特許局に行かれると、あの子は懲役になります」
「どうして懲役に? 罰金さえ払えばそれで済みますよ」
「その罰金を出す金がないのですから、どうすれば……」
と言い、中村にすがって大声で泣き始めた。
「この子ったら、よりによって他人様の特許品を偽造して、牢屋に行くなんて。どうすればいいのよ」
と体を震わせながら泣いた。
中村も母親を抱きかかえて泣き、妹も泣き、三人の家族が皆抱き合って大変な情景となった。しかし、三浦弁護士と岡田検事はどちらについていいのか分からず、ただ呆然と眺めているばかりだった。
中村の家族の姿は見るに忍びなかった。私は彼らを見ながらしばし考え込んだ。三〇近いこの歳まで私は他人を助けたことはあっても、苦境に立たせたことは一度もない。そんな私がこの男を獄に送ってもいいのか。そう思うと、その母親がいっそう哀れに思えてきた。私にも母がいる。親の子を思う気持ちには、国も民族も変わりはない。その母親を思って許してやることにしたが、ひと言きつく言い聞かせてやろうと考えて中村を呼んだ。
「はい?」
と、彼は私を見上げた。
「私の言うことをよく聞いてみなさい。人間は感情の動物だ。原告の私が被告の呼び出しを受けてこちらに来るとき、その時の気持ちはどうだったと思う? 私はあなたをほんとうに憎んだよ。それで、どんなことがあっても今度のことだけは必ず決着をつけようと心に決めてきたんだ。ところが来てみて、あなたよりあなたのお母さんの泣いて頼む姿を見て思い直した。私にもあなたのお母さんと同じ母がいるんだ。民族を越えて人の情けがあなたを許すので、今後はお母さんに尽くし、ちゃんと生きていきなさい。金も受け取らないから、その金で親孝行しなさい。いいかね。岡田検事様、私の書類は焼いてしまって下さい」
そう言って立ち上がった。中村の家族が私の方へ寄り添ってきた。
「旦那様、ほんとうにありがとうございます。息子の若い人生を生かしてくださり、このご恩は決して忘れません」
三浦弁護士と岡田検事も私にありがたいと礼を述べ、帰りの列車の切符を買ってあげたいと申し出た。しかし私は、すでに往復切符を買っているので、心配いりませんと言い残し、駅に向かった。被告側の五人は駅まで見送りに来て、列車の遠ざかるのをいつまでも見送ってくれた。
暫くして私はようやく落ち着きを取り戻した。母子を助けたという爽快な気持ちがあったが、どうしてそこまでしなければならなかったのかという気持ちもあった。


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