【映画】『焼肉ドラゴン』(日本)

関西の焼肉店が舞台 家族の物語
日付: 2018年05月30日 00時00分

(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会

 『月はどっちに出ている』や『愛を乞うひと』など映画の脚本家として活躍し、劇作家・演出家としても知られる鄭義信が、自身の人気戯曲の映画化で監督に初挑戦した作品。
万国博覧会の開催に沸く1970(昭和45)年の関西地方。高度経済成長から置き去りにされたようなたたずまいの小さな焼肉店「焼肉ドラゴン」には在日韓国人の龍吉・英順の夫婦に静花、梨花、美花の三姉妹と一人息子・時生の6人が暮らしていた。
龍吉は戦争で左腕を奪われ、故郷の済州島に住んでいた親せきも戒厳令下の事件で亡くしていた。そんなつらい過去にもめげず、「たとえ昨日がどんなでも、あすはきっとええ日になる、そう思うしかない」。それが龍吉のいつもの口癖だった。
店は、静花の幼なじみの哲男たちなど騒がしい常連客でいつも賑わい、泣いたり笑ったり、時には取っ組みあいのけんかをしても、強い絆で結ばれていた。しかし、やがて「焼肉ドラゴン」にも、次第に時代の波が押し寄せてくるのだった。 
登場する人物はみな何か問題を抱えている。生きていくために仕事を探したり、結婚相手に恵まれずに悩む人、学校でいじめにあい行き場を失っている子ども、北朝鮮への帰還事業に希望を託す人もいる。どれも将来の見通しなどつくはずもなく、確かなものといえばバラックのような建物だけだ。その住宅を兼ねた店のある土地すらも、日本人から購入したという国有地で立ち退きを迫られていた。戦争、帰還事業、そして万博。背景として紹介される政治や社会的な事件を追うだけで、小さな家族の大きな歴史が浮かび上がる。
監督は、自分の出自である在日韓国人の物語を書きたいと思ったのが、そもそものきっかけになったという。ところが共同制作の相手である韓国で在日のことがあまりにも知られていないことに驚き、舞台の脚本では在日の普通の人を描くよう心がけたという。そのためだろうか。在日韓国人という限定的な家族を描きながら、観客には故郷を捨てざるを得なかった家族の普遍的な物語として受け入れられたという。知人の日本人から土地を買ったというエピソードは、実際に監督の父親が経験したことだ。忘れ去られようとしている庶民の記憶を監督は少しでも記録に残しておきたかったのだろう。
韓日合作の本作には長女・静花役に真木よう子、二女・梨花役に井上真央、三女・美花役に桜庭ななみ、静花の幼なじみ哲男役に大泉洋らと、3姉妹の父親・龍吉にキム・サンホ、母親・英順にイ・ジョンウンが当てられ、本当の親子のように馴染んでいるのも見どころだ。子どもたちがそれぞれの道へ去っていく際に、母親が声をからして叫ぶ場面が印象的。
「ばらばらになったかて、うちら家族はつながっとる、それを忘れたらあかんぜー」
オモニの母としての精いっぱいの励ましの声である。
(紀平重成 アジア映画ウオッチャー)
公開=6月22日より全国公開。
公式HP=http://yakinikudragon.com/


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