高麗青磁への情熱―139―

日付: 2018年05月16日 00時00分

新案特許(10)

柳根瀅
高徹・訳/馬瑞枝・画


「そんなに意地を張ったって、ない袖は振れないし、そこは何とか頼みますよ」
「私はこの人のせいで損害を受けたのに、その私に人助けをしろって、いったいどういうことかね。私が朝鮮人だからとしても、あんまりじゃないかね」
「それじゃ、どうしろと?」
「いや、法律どおりにするだけですよ」
「私が起訴しなくても法律どおりにやるというのかね?」
「担当検事が起訴をしない、これはあんまりだ。それを聞いて私がおののくとでも思っているようですね。でもね、中村さんも後できっと後
悔すると思います。東京特許局に出かけて審判手続をします。そうしたら、数日中に判決が出るでしょう。今、あなたは八百円以上は賠償できないと意地を張っているが、新案法に引っかかっているから五千円以下の罰金、または五年以下の懲役を受けて、賠償は賠償として支払わなきゃならないと思いますよ」
いつの間にやって来たのか、中村の母と妹の二人が傍らで私の話をじっと聞いていた。中村とその家族が私の手を取り、助けてくれと哀願しはじめた。
「京城の旦那様、あたくしども三人家族をお助けくださいまし。あたくしどもの生活は京城の旦那様のお慈悲にかかっております。どうぞ可哀想だとお思いになって助けてください。このご恩は死んでも忘れません」
ふと彼らを見ると、なぜか侘しい気持ちがしてきた。しかし、彼らの行動があまりに身勝手なので、一方ではむっとまた怒りがこみ上げた。
「日本人の卑しい行動を考えるとほんとうに許せない。どこの国に被告が原告を呼び出すところがあるもんか。あなたたちは日本人が一等国民であるという意識を持っているのだ。今度のことだけ取ってみてもそうだ。朝鮮人といって馬鹿にされる私は、腹立ちまぎれにでも最後まで争ってみせるからね」
「柳さん、誤解なさらないで。最初あなたに会ったときも言いましたが、今度の事件は京城で考え違いをして呼出し状を送ったせいです。とにかく冷静になって、被告の事情を思いやって、許してあげてくれたまえ」
私は暫く考え込んだ。
「若旦那様、あたくしども三人の家族をお助けくださるお気持ちで、どうぞこれだけお受け取りになってご勘弁のほどを」
そう言いながら、私の目の前に拝みこんで声を張り上げて泣き出した。
「これだけとは、いったいいくらなんです?」
「八百円でございます」
「八千円のうち八百円、一〇分の一で我慢しろということかね?」
「それ以上はもうどうすることもできません」
「八百円と今まで言ってきた額のまま、それ以上の誠意も見せずに、ただ自分たちの主張を押し通そうとするのかね……」


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