集団脱北した従業員の送還を示唆か

統一部の見解に憲法違反の指摘も
日付: 2018年05月16日 00時00分

 2016年4月、中国浙江省寧波の「柳京食堂」から集団脱北した従業員13人の北韓へ送還を求める動きが表面化し、物議をかもしている。統一部は、彼らの脱北が「自由意思によるものか否かを確認する必要がある」と述べている。自由を求めて韓国に来た3万人に及ぶ脱北者コミュニティは、死地・北韓への送還危機に脅かされている。
(ソウル=李民晧)

恐怖に脅かされる国内3万人の脱北者

 青瓦台国民請願掲示板に「北送検討反対請願」という投稿が上がっている。脱北者が北送(送還)への不安を訴えるのには理由がある。
歪曲報道で有名なJTBC放送が、北韓食堂従業員の脱北は「国家情報院の企画だった」とするインタビュー映像を放送した。白泰鉉統一部スポークスマンはこれに対し「新たな主張もあるため、事実関係を確認する必要がある」と答えた。さらに、青瓦台関係者は「脱北した女性従業員の北送問題と、北韓に拘束されている韓国人(6人)と交換する方法も考えられるか」との質問に対し「今は何とも言えない。(同問題で)進展があれば報告する」と回答した。
政府が女性従業員の北送を検討する余地があると解釈されかねない。
JTBCは、女性従業員らと一緒に入国したレストラン支配人、許ガンイル氏のインタビューを通し、国家情報院の企画による脱北であると主張していた。番組内のインタビューで、許氏は「国家情報院に騙された」と述べた。つまり、国会議員選挙で保守政党が有利になるよう、国家情報院が工作したと主張したのだ。
こういう状況の中、「民主社会のための弁護士会(民弁)」は14日、集団脱北した女性従業員たちの北送を主張し朴槿惠前大統領や前職国情報院と統一部長官らを告発した。
韓国に定着した3万人の脱北者たちは現在、恐怖に包まれている。脱北者で作家のチ・ヒョナ氏は「脱北者の北送とは死を意味する。憲法にも明記されている自国民を北送するというのは論外だ。北送に反対する青瓦台請願への参加を呼びかけたい」と語る。また別の脱北者は「中国から送還された脱北者は直ちに収容所に連行される。ましてや韓国に定着した脱北者となれば、公開処刑の対象となる」と明らかにした。
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脱北者らは11日、青瓦台の国民請願掲示板に「脱北者レストランの従業員に対する北送を中止してください! 北韓は世界最悪の人権抹殺国です!」と投稿し、15日午前現在で1万1000人以上が署名した。脱北者の北送反対運動を展開している「韓半島の人権と統一のための弁護士会(韓弁)」は「政府は本気で彼らを北送するつもりらしい。脱北者と人権団体が総結集し、行動すべきだ」と述べた。
正しい未来党は「一個人の問題に留まらず、全脱北者の問題であり、北韓で暮らす全ての家族に関わる問題。つねづね民主と人権を訴えている人物(現政府メンバー)らが北韓同胞の苦難には目もくれない。ついには脱北者の送還の可能性まで示唆していることに対して怒りを禁じえない」と政府を批判した。未来党はさらに、死線を超えて入国してきた脱北者を「協商材料」と考えているなら、国と政府の資格がないと指摘した。
北韓食堂の従業員による集団脱北事件をめぐり、北韓は再三にわたって送還を要求していた。1993年の金泳三政権時、自由民主主義への転向を拒否した長期懲役囚の李仁模を、北側の要求を無条件に受け入れて北送した前例がある。今回も、当時の流れと同様だと警戒する向きもある。集団脱北女従業員たちを懐柔し、北韓への送還を企てているのではないか。本件はすでに北韓との交渉テーブル上にあるとの説もある。
北韓が世界最悪の人権弾圧地域であることは周知の事実だ。そして、脱北者が韓国国民であることもまたしかりだ。憲法第10条は「国家は、個人が持つ不可侵の基本的人権を確認し、これを保証する義務を負う」と明記している。3万人の脱北者は、国民保護義務を否定され、死地に追いやられることへの恐怖におののいているのだ。
米・日は北に拘留されている自国民の救出に熱心なのに、韓国の現政権は国民まで北送させようとするのではないか疑われている。


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