米国の対北軍事措置を恐れた金正恩がトランプ大統領との談判を前に、時間稼ぎのため板門店に現れた。全知全能の誤謬のない首領が、多くの負担があるにも韓国大統領との会談に臨んだ。首領とその家族までが革命の戦場に一介の革命戦士として舞台に上がらざるを得なくなったというのは、対内外的に核強国を叫んではいるものの、金正恩体制がそれほど切羽詰まっていることを物語る。
朝総連は平壌の指令に従って「板門店宣言」を歓迎した。東京でも金正恩がまだ板門店にとどまっている時間に、朝青などを動員した祝賀行事が行われた。ところが、一体どういう内容、どういう成果を歓迎し、支持するというのか。北韓の非核化をめぐる談判が時々刻々近づいて金正恩は血が乾く圧迫を受けている。
健康が良くない金正恩がどれほど重い圧迫を受けているかは推測できる。ところで、今回の南北首脳会談を通じて首領の仮面が剥がれた。主思派政権の文在寅政権に対しては、圧迫を受ける必要もない状況だったが、TV生中継に映し出された金正恩は、あらかじめ書いた原稿に基づいて演じる若い首領に過ぎなかった。
会談とは元々立場が衝突、対立する主体間で行われるものを指す。だが今回、金正恩の運が良かったのは、韓国の青瓦台を占領している主思派(金日成主義者たち)と事前にすべてのことを調整して会談では、特にやることがなかったということだ。
同じ属性を持っている者同士の会談は、会談でなく会合であり、合意でなく野合にすぎない。実は今回、板門店宣言の合意内容は、南北間で1991年12月に結んだ南北間の基本合意書に比べて具体性もなく、ただ労働党統戦部の方針を書き写したものだった。
当初から新しい合意文も必要なかった。南北間の葛藤は、1991年の合意を守れば済むことだ。ところが、金正恩は板門店で主体の「平壌時間」を元へ戻すと言った。象徴的な出来事だ。韓国を利用して国際社会の対北圧迫を避け、主思派政権から経済的支援を引き出すためには止むを得ない決定だった。「主体」がいかに不便なのかを悟ったのだ。
もちろん、今回の板門店宣言で最も核心的な部分は、「10・4宣言」を実践するという部分だ。「10・4宣言」は、盧武鉉が退任4カ月前に平壌へ行って金正日と署名した共同宣言だ。そして「10・4宣言」の内容は、元々金日成が言った高麗連邦制の後続事業の形で提案された韓国搾取計画だ。もっとも、世の中にうらやましいものはないという、首領が指導さえる「共和国」が貧しくて乞食をして食べるのか自慢できるようなことだろうか。主体の国がどうして南韓にすがるのか。
北側が今回の板門店宣言でも用いた「有無相通ず」の論理は、マフィアやヤクザの世界で通用するようなもので、抗日パルチザン伝統を誇る金氏王朝が、恥を顧みず主張する論理だ。実は、北韓は建国以来、金日成の時代から、北韓より発展した社会主義の兄弟国であるソ連や東欧、そして中国から「有無相通ず」の援助を受けて生きてきた国だ。
そのため、東西冷戦で社会主義圏が消滅するや北韓は日本や韓国に期待するようになる。だが、金日成と金正日が苦労をしても、全知全能の首領たちの能力は国際社会では全く通用しなかった。
日本からの支援と協力を引き出すため労働党の在日党である朝総連が1970年代から必死に頑張ったが、北韓体制の限界のため、資本主義先進国との経済協力を得るのに失敗した。特に、経済発展のため市場原理を先に導入した中国が、金日成と金正日にも改革開放を勧めたが、首領独裁体制の固守が優先だった北韓は、あくまでも閉鎖主義を固守して、食料さえ外国の援助にたよるようになった、世界で最も貧しい国となった。
もちろん、金正日も経済的活路を日本との国交正常化で求めた。しかし、拉致問題などで結局、日本から支援を得るのが困難になるや、金正日は金大中と盧武鉉を利用して「6・15」や「10・4宣言」など韓国から支援を得ようとした。
しかし、外部からの支援を有効に活用するためには、鉄壁のような首領独裁態勢を現実に合うよう調整する必要があったのに、平壌側は外部の支援を生かす態勢の構築に失敗した。ここには、朝総連の罪が大きい。労働党の唯一の在外支部として朝総連が首領に現実的な提言をすべきだったが、朝総連社会はひたすら平壌に盲従することだけが愛国で、衷情と見做され、北韓を発展させる機会を朝総連自らが封鎖してしまったのだ。(つづく)