高麗青磁への情熱―135―

日付: 2018年04月11日 01時05分

新案特許(六)

柳根瀅
高徹・訳/馬瑞枝・画

 これで証拠は充分である。もう告訴して恨みを晴らして当然だと思った。もちろん、これは普通の弁護士ではだめである。弁護士であって特許専門の弁理士の資格をもつものが担当すべきである。当時、弁護士で同時に特許弁理士の業務を兼ねていたのは、二人しかいなかった。一人は日本人の高橋長之助、もう一人は朝鮮人の李某であった。
この事件は相手が日本人であるだけに、弁護士も日本人の方が有利だろうと思い、高橋を訪ねた。私は手付金として五〇円を払い、できるだけ早く解決してくれるよう頼んだ。しかし一〇日余り待っても、何の返事もない。それで高橋を訪れて問うた。
「できるだけ早く裁判にかけると言っていたのに、一〇日以上経っても何の音さたもないのは、どうしたんですか?」
「大変申し訳ありません。いくら考えても、この事件に私が関わるわけにはいきません。それは、裁判で勝訴しても、日本人が朝鮮人の側についたと悪評を買うことになりますので……」
 そういう訳だったのだ。私は手付金と書類を返してもらい、今度は李某を訪ねた。
またもや一〇日過ぎても何の連絡もない。じっとしていられなくて、彼のところへ再び行った。
「誠に申し訳ありません。特許手続きはしましたが、この種の裁判はやったことがないので、やりようがありません」
私は怒り心頭に発した。
「何ですって? こんな裁判をやったことがないだと? 日本人になりさがってしまい出来ないというのかね? ただの日本人でなく日本の貴族であろうとも、相手が不利、こちらが遥かに有利であるというのに、それでも恐ろしくて出来ないというのだから。さ、手付金と書類を返しなさい」
私は手付金と書類を受け取った。しかし到底、そのままその場を去る気になれなかった。
「ところで、特許弁理士の看板をかけていながら仕事が出来ないというのなら、その看板は必要ないでしょう。むしろ、田んぼの真ん中にでも立てかけて案山子の代わりにすれば、鳥も避けてその田んぼの収穫も上がるのでは? 特許弁理士の看板をかかげながら裁判ができないとすると、そりゃ出鱈目な弁理士じゃないのかね?」
「何だと?」
彼も怒ったようにかかってきた。彼は足が不自由なのか、片足を引いていた。
「あんたがかかってこれるのかね?」
互いの語気が荒くなり、それを聞きつけた事務員たちが飛んできて間に入った。
家に帰ってよくよく考えてみると、腹が立って我慢ならなかった。当然の権利を持ちながら、相手が日本人だというだけで告訴もできないなど、ありえないことだ。たとえどこへゆこうとも必ず告訴して復讐してみせると、固く決心した。


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