韓昌祐経営論 マルハンの企業倫理(6)

社会のリーダーは他人に配慮する率先垂範を
日付: 2018年01月17日 00時00分

ソウル・李民晧

 「自主と自立」という韓昌祐の経営哲学は、普段の生活にも表れている。外国出張の準備は自分でする。ネクタイからワイシャツ、靴下まで、すべての荷造りを自分の手で行うのだという。
「家内は私のクローゼットに何が入っているか知りませんよ(笑)」
90歳近くになった今も、長期海外出張に連れ歩くのは随行社員一人だけだ。京都の自宅から東京のマルハン本社に移動する際の新幹線の乗り降り、顧客とのミーティングのスケジュール管理やレストランの予約、食事の支払いに至るまで、誰の助けも借りずにやる。数年前のインタビューで、韓昌祐はその理由について次のように説明した。

「上京する時は朝早く新幹線に乗ります。よく京都駅で京セラ創業者の稲盛和夫さんに会いますが、彼の秘書も新幹線に乗るところまでしかついてきません。一人で仕事の段取りをつけるのは、何も特別なことではありません。自分の仕事を他人に頼ると、業務能力が落ちるからです」
こうした考えと行動は、常に大勢の人を連れ歩く韓国企業の経営者たちには想像もできないことだろう。韓昌祐は、社会のリーダーであればこそ、見た目の派手さではなく、他人に配慮する率先垂範が優先されるべきだと語る。
「『実る稲田は頭を垂れる』というように、人間は成熟すると行動と性格が丸くなります。多くを持つ者ほど、社会的地位が高い者ほど、謙虚な姿勢で他人に配慮しなければなりません」
同氏はお金を稼ぐことを食事に例えた。空腹のときに腹がはち切れんばかりに食べると、胃がむかつく。しかし、食べたい量の8割程度に抑えておけば、体にいいということだ。
「食事は腹八分がいいといわれます。ビジネスでも腹八分にしておけば、余裕が生まれ、むしろ物事がうまく進むことがあるのです。最近、百年に一度の不況などといわれますが、日本での70年にわたる日々を振り返ってみると、たいしたことではないという気がします。どのような分野でも成功することは可能です。挑戦し、必ず成功させるという根性を持っていれば、です。その気持ちがあれば、どのような難関にあっても怖くありません」
海外に居住する韓国人や韓国系住民(いわゆる在外同胞)の数は740万人にのぼる。韓昌祐もその一人だ。彼が韓商(韓国商工人)活動に格別の愛情を持っているのも、後輩と自分の経験を共有したいからだ。
「どの国でも、外国人に対する差別はあります。企業人が差別を克服する道は単純です。事業をしているその国、その地域のために社会貢献を熱心にすることです。お金を稼ぐことは技術、お金を使うのは芸術ということに留意するのです」
外国で経営者として立つのは苦難の連続だ。韓昌祐はマルハンの経営モットーである「信用、努力、奉仕」の三つを着実に守るなら、どのような障壁も越えられると、信念に満ちた声で言う。
韓商へのメッセージは、もう一つある。
「目は世界に、心は祖国に」
韓国の民間外交官となり、世界と居住国で認められ、祖国の発展を願って生きていれば、自然と韓国人としてのプライドを持つようになるという持論だ。韓昌祐のお気に入りの詩は、サミュエル・ウルマンの「青春」。彼はその一節を暗誦し、半生の述懐を終えた。
「青春とは人生のある期間を言うのではなく、心の様相を言うのだ。(中略)年を重ねただけで人は老いない。理想を失う時に初めて老いがくる。歳月は皮膚のしわを増すが、情熱を失う時に精神はしぼむ」


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