「平和の祭典」に水を差す北韓の挑発<1>

期間中の安全対策に懸念 
日付: 2018年01月01日 00時00分

 国際的イベントを誘致した国がもっとも気にかけるのは、言うまでもなく安全。すなわちテロに対する備えだ。平昌冬季五輪の安全対策についてさまざまな角度から検証する。(ソウル=李民晧)

政府は韓米軍事訓練の延期示唆

 平昌は、大会誘致の段階から「平和」をスローガンに掲げてきた。世界唯一の分断国家であり、韓国唯一の分断地方自治体(江原道)で開かれることに意義があり、五輪を平和の祭典にするという目標を立てた。これを達成するには、基本となる足元の安全保障をしっかり固めないといけない。
開幕を40日後に控える現在、韓国の準備態勢は万全だろうか。政府内では安全保障と逆行するような動きが見られている。
文在寅大統領は昨年12月19日、米NBCとのインタビューで、「北韓が平昌五輪まで挑発を停止すれば、韓米両国もオリンピック期間に予定されている合同軍事訓練の延期を検討する」とし「すでに私は米国側にこのような提案を行い、米国側も検討している」と述べた。また、「これはひとえに北韓にかかっている問題だと思う」と付け加えた。
オリンピックが開幕するのは2月9日、パラリンピックの閉幕は3月18日だ。韓米両国は毎年2~3月、合同軍事訓練「キーリゾルブ」「トクスリ訓練」を行っている。
ここで生じる疑問は、五輪のために安全保障に直結する米国との軍事訓練を中断・延期することに整合性があるのかという点だ。これまで韓米合同軍事訓練が中止になったのは金日成が死亡した1994年、だが当時と現在では状況が異なる。
当時の米国は、核交渉で北韓が寧辺核施設の査察を受け入れ、非核化議論のため南北間の特使交換などをみて、訓練中断を決定した。北が交渉に応じる姿勢をみせていた。しかし今は米北間交渉は断絶しており、北韓は公然と核戦力の完成を宣言している。核兵器放棄の兆候も意思もまったくみえない。
このような状況で、韓国は危機感なく安穏と構えている。韓国内で、五輪が安全保障よりも優先されるべきかについての論争がほとんど見られないことも懸念される。
もう一つの問題は、韓米軍事訓練中止の示唆が、北韓や中国に向けた誤ったメッセージとして解釈されるという点だ。米国との合同軍事訓練をしないから、北韓も黙って選手を派遣してほしいという、韓国からの合図と受けとめられる。中国が主張している「双中断」(南北双方の軍事緊張行為中断)ともマッチする。
一般的な韓国人は、五輪で実質的な安全対策がどのように施されているかや、緊急事態発生時の避難についても無知である。ただ、政府がオウムのように繰り返す「安全には万全を期している」という言葉をうのみにしている。政府も、オリンピックの安全に対する宣伝・啓蒙を積極的に行っていない。
国内でオリンピックムーヴメントがなかなか高まらない中で、政府の動きは、海外でより目立っている。安全に関する広報材料として使われているのが、国連の「オリンピック休戦決議案」全会一致採択や、北韓に対する五輪参加打診だ。
文在寅大統領をはじめとする多数の政治家や外交官は、平昌オリンピックの広報大使を自任し、海外での広報活動に躍起となっている。
問題は、このような動きはあくまでも対外的なメッセージであり、宣言のためのパフォーマンスにすぎないという点だ。「平和」を得るための実質的な行動や「安保」に役立つ動きとはいえまい。
むしろ大会期間中、米国との合同軍事訓練を行うほうが、安全への効果的なメッセージとなるかもしれない。米国は何があっても必ず韓国を助けるというシグナルを発信することで、「コリアリスク」を懸念して大会参加を迷っている国を安心させられる。北韓の挑発や有事への対応も容易になる。毎年定例の訓練であり、自国保護のために必須のものであるという名分も立つためだ。


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