波紋を呼ぶ 米国の新国家安全保障戦略

経済・安保で確固たる主張 
日付: 2018年01月01日 00時00分

米国はNSSの中で中国とロシアを競争覇権国家と定義した
中露は同盟国にならない 危うい文政権の立ち位置

 トランプ大統領の新国家安全保障戦略(NSS)の発表は、各方面に波紋を投げかけている。今後、長年にわたり、国際政治の現場で多くの問題が発生するだろう。これは一見、米国優先主義政策のようでありながら、実際は米国優先主義に対抗する最大の勢力であるロシアと中国に対して、敵であるとの立場を示すものだ。  (ワシントン=金暎勲論説委員)

 1991年、ソ連邦が崩壊し共産主義国家から現在のロシアとなり、その結果、冷戦に終止符が打たれた。この一般的な説明には、二つの意味がある。一つはイデオロギーの対決の時代が終わったということ、もう一つは、両極体制が消えたことだ。
共産主義の理念は消え、イデオロギーの対立や紛争もなくなり、世界に平和が訪れるはずだった。しかし、現在も平和への道程は遠いまま、むしろ遠ざかっている。今や第3次世界大戦が起きそうな気配すらある。
CIAのジェームズ・ウルシ元局長は、この状況を端的かつ適切な言葉で表現した。
「龍はいなくなったが、多くの蛇の時代になった」
サダム・フセイン、カダフィ、オサマ・ビン・ラディン、金日成、金正日、金正恩に至るまで、恐ろしい独裁者が権力を握り、タリバン、ヒズボラ、ISISなどのテロ組織が、30カ国以上の国を脅かしている。米国では9・11の巨大テロ事件で多くの人命が失われた。
旧ソ連邦の崩壊で両極体制は一極体制となり、米国はいわゆる唯一の超大国となったが、それから27年余りが過ぎた今日、米国単独では世界中の”毒蛇”を退治する力はない。それだけではなく、経済的に貧しい国々を支援し、軍事力を維持するための負担も小さくない。超大国の権威は、かろうじて保たれている状況だ。
こうした現象は、冷戦終結後に広まったグローバル主義によるものだ。それまで資本主義との理念対立があった中国とロシアは、米国の後を追うことはなかった。だが、冷戦終結から20年以上が過ぎ、市場経済に移行した国々が米国の背後に迫っている。米国は、中露に対する特別の対策を迫られていた。
昨年1月に就任したトランプ大統領は、物議をかもす政治の素人として登場したが、就任から11カ月、大きな波紋を呼ぶNSSを発表した。NSSの核心は四つに要約される。
(1)米国の国土、国民、生活の価値を守ること
(2)米国の繁栄のための努力
(3)力による平和維持
(4)米国の影響力増進
(1)と(2)については、自国を第一に考えるのは米国に限らず、どの国もそうだろう。しかし(3)と(4)は、「世界制覇」の野望を明らかに示したものである。
文大統領はTHAADの追加配備を検討しないなど「三不の原則」を中国と交わした
 この戦略で特筆すべきなのは「力による平和」である。この「力」とは、経済力、軍事力、外交力、文化力、政治力を意味する。特に軍事力は、国家の存亡と深く関係しているので、中国とロシアは敏感に反応している。
トランプ大統領はNSSの中で、中国とロシアを米国に挑戦する「競争覇権国家」と規定し、修正主義覇権国家であると名指ししている。平和の実現のためには力が必要だとしているが、これは冷戦時代、軍事力、政治力、経済力を核とした米国の基本戦略だ。
米国のリンカーン元大統領は、初代共和党の大統領であると同時に、保守の政治家であった。その系譜連なるレーガン元大統領が、自由民主主義の信奉者としてソ連邦を解体に追い込んだ。レーガンの政策路線の核心が「Peace Through Strength」(力による平和)戦略だった。91年のソ連邦崩壊で後ろ盾を失った金日成は、すぐさま主体思想の確立に着手した。
中国は一帯一路政策を立案し、アジアからヨーロッパ、さらにはアフリカまでを、中国の現代版シルクロード圏に収めようとしている。ロシアとともに「氷のシルクロード」構想を立ち上げ、米国のインド太平洋構想をけん制しつつ、一度は崩壊した共産主義と社会主義の夢を実現しようと模索している。
トランプ大統領は、このような修正主義者の本音を見抜き、今回のNSSを世界に公表したのだ。これは米国優先主義政策の一環であり、米国の対外政策である。
この中で、北韓への言及は17回。「不良政権」の打倒と金正恩の核の脅しを完全になくすと息巻いている。ロシアには25回、中国には31回も言及しているが、トランプ大統領は軍事的優位だけでなく、経済的な優位にも立たなければならないとのスタンスだ。経済安全保障と国家安全保障を同時に実現し、米国第一主義による超単独強大国を目指すという決意を示している。
問題は、韓国だ。文在寅政権の対米姿勢は、実に挑戦的だ。左派政権であり、米国の保守理念とはことあるごとに衝突。反米思想の枠組みから抜け出すことができずにいる。今までは、米国を友邦としていたが、いずれ反米政策のつけを支払わなければならない時がくることが大きな懸念材料だ。
今回のNSSは、強力な軍事力で韓半島の非核化を導くと強調しているが、金正恩は絶対に核を放棄しない。米国は強制手段を動員しても金正恩の野望を打ち砕くだろう。つまり、このままでは戦争という手段しかないということになる。
もちろん、米国は戦争を始める前に、最後まで外交的な努力で平和的解決を模索するとしているが、レーガンとゴルバチョフのような対話と交渉が通じないトランプと金正恩の関係は、国家存亡をかけた戦いになるだろう。
北韓の核とミサイルが実戦に投入される時間を与えないというのが、トランプ政権の考えだ。トランプ大統領が最初から強調しているように、過去25年間の米朝対話と交渉は、成果がなく、時間と労力を消耗し、経済的損失だけをもたらした。
これに対して文在寅政権は、絶対に韓半島での戦争は許さないという点を繰り返し強調してきた。これは、中国とロシアに向けて述べたことだ。トランプ大統領は、気を使って「融和政策を駆使する文在寅大統領」と表現しているが、世界屈指の情報網を持つ米国の各機関は、多くの情報をホワイトハウスに伝えている。
文政権の動きも例外ではない。韓国は今からでも路線を変更する必要がある。筆者の心からの忠告だ。
文大統領の、許可なく韓半島で戦争は起こさせないという発言は、愚かである。文大統領はどうやって戦争を防ぐというのだろうか。最も重要な問題は米国と相談しなければならないのに、米国の敵対国に頼ってどうなるのだろうか。
文大統領が習近平主席と約束した「三不の原則」(▼THAADの追加配備を検討しない▼米国のミサイル防衛システムに参加しない▼韓日米安保協力を軍事同盟に発展させない)も、米国の不興を買い、米国の敵対国と”密約”を交わすという結果のみが残った。
現在、韓国左派の行動隊長格は任鍾晳秘書室長だ。任室長の中東訪問には、大統領府の発表とは異なる秘密のミッションがあり、その内容は、米国と対立する文政権の、また別の反米行為である。
昨年の4月と8月に実施された米軍の世論調査によると、米国にとっての脅威はサイバーテロが78・9%となった。北韓の72・4%よりも高い。もしサイバーテロの主役が北韓という事実を知っていれば、金正恩政権が米国人の最大の悩みの種であることが理解できよう。ちなみにロシアは53・1%だった。
このような理由から、韓半島に米軍を増派しなければならないという世論はなんと64・2%に達している。この世論形成は、かつて欧州や中東を中心としていた自由戦略が、韓半島に移っていることの確たる証拠だ。
文在寅政権が今後も米国の目の届かないところにいるなら、ひどい目にあうだろう。「ロウソク民心」という市民革命で前政権から権力を強奪した時よりも大きな問題で、文大統領は失墜することが予見される。
金暎勲
 中国は決して大韓民国の支援国家になったり、同盟国になることはない。ロシアが韓国の側に立つこともない。これを肝に銘じなければならない。
北韓や中国、ロシアと同じ側に立とうとするなら、それは左派政権としてさらなる反米活動をしなければならないことを意味する。先を見通せない姑息な考えの人ならともかく、知恵のある人はやらない。この厳然たる事実を知るべきだ。
トランプ大統領のNSSは、中国やロシア、イスラム世界はもちろん、南北韓に対して明示された、共存のためのマイルストーンだ。トランプ大統領とNSSがなければ、2018年の世界地図には厄介な問題が新たに書き加えられることだろう。


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